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興奮冷めやらぬ


 王都リィンスガヤ王国は王都の外れにある練兵場。

 王国騎士団達の宿舎も併設された場所ではあるが、その周囲は閑散としていた。


 地理的にも繁華街から少し離れたところにあり、利用客は騎士団員のみ。おまけに貴族の団員と平民の団員が入り交じっておりターゲットが絞れないというトリプルコンボのせいで、いくつかの飲み屋が点在するのみだった。


 そのうちの一つ、比較的安価なダイナーである『咲夜』という店で、男達は酒を酌み交わしていた。


「いやぁ、しかし何度思い返しても、名場面の連続だったなぁ」

「俺的には、イグニスがあの女の子に負けた試合が一番気に入った」


 それは今までの王都では見られなかった、あまりにも珍しい光景だった。

 第一騎士団と第二騎士団と第三騎士団。

 通常なら功績を競い合うライバル関係にあり、また団ごとに反目し合っている彼らが、同じテーブルにつき、同じ釜の飯を食べている。


 彼らが話しているのは、先ほどまで続いていた激闘。

 機動鎧の乗り手である機動士トーナメントでの激戦についてだ。


「しかし機動鎧というのはとんでもないな」

「ああ、あれを我らが使いこなすことさえできれば……」


 ダイナーの二階は予約限定の密室となっており、秘密の話をするにはもってこいだ。

 三人は声を潜めてこそこそと話しながらも、彼らはその興奮を隠しきれていなかった。


 だがそれも当然のこと。

 彼らは王国の剣となり、そして盾となる騎士だ。


 しかしながら近年、騎士達の活躍の場は減る一方だった。

 魔法を使える騎士は、火魔法第二階梯である強化を使って自分が動き回るより、遠距離から火魔法を相手目掛けて放った方が戦果が出せる。

 そのため火力を出せる魔導師が重要視され、未だに剣と盾を使い前時代的な戦いをする騎士達は疎んじられる傾向がここ最近は強かった。


 けれどあの兵器――機動鎧は、今までの歴史を根本から変えてしまう兵器だ。

 あの兵器がもたらすのは、間違いなく騎士の時代の再来。


 時代の転換点となるあの兵器を前にしては、普段から続いている騎士団同士のいがみ合いなど、ささいな問題でしかない。


「頭が固いうちの団長も、流石にあれを見せられては何もしないわけにはいかないようでな。トッド殿下に急ぎごまをすっていた」

「第二騎士団も似たような物だな。かなりの量を卸してもらえるみたいで、ホクホク顔だったぞ」

「なんだとっ!? うちの第三騎士団には在庫がないからあまり数は出せないと言われてるぞ!?」

「うちと第一騎士団で買い占めたからな」

「ぐぬぬ……団長は出遅れたのか」


 ここにいる三人は、所属する騎士団も違えば出自も違う。

 貴族家の次男坊に、商家の三男に、元冒険者。


 生い立ちも経歴もまったくと言っていいほど別物である彼らは、しかし今は一つの目標に向かって、同じ方向へと進んでいる。

 今まで軽んじられてきた分、彼らの悲願は大きかったのだ。


「だがなんにせよ……」

「ああ、俺達の未来は明るいぞ」

「今日は無礼講だ、明日も休みだし、浴びるほど酒でも飲もう」


 あらゆる物が異なり、ただ一点騎士であるという点だけが共通している彼らは、しこたま酒を飲みベロベロに酔っ払うのだった。


 この日はこんな風景が、いくつも繰り広げられていた。

 ある者は遠出した酒場で、またある者は自室に同輩達を招き。

 騎士達は酒を片手に明るい未来を語らう。


「リィンスガヤ王国の未来は明るいぞ!」

「リィンフェルトなぞに負けるものか!」

「トッド殿下、万歳ッ!」


 至る所で叫ばれる声。

 彼らが称えるのは、自らが王族として不適格者の烙印を押されてもひたむきに頑張り続け、機動鎧を作り上げたトッドだ。


 さて、そんな風にあちらこちらから褒め称えられているなどとはつゆ知らずにいるトッドはというと……。









「また行ってしまうのですか、兄上」

「うん……僕が行かなくちゃいけないからね」

「わかりました、もう止めはしません。ですから今度は――私も連れて行って下さい!」


 弟であるエドワードにしがみつかれ、途方に暮れていたのだった――。

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