こくり
ライエンバッハはローズの攻撃を受ける。
それはまるで柳が風を受け止めるかのようだった。
自然で、気張らず、まるで相手の攻撃はそよ風だと言わんばかりに。
「――っ!?」
ライエンバッハが返し手として用意したのは、ローズの斬りかかり後の振り上げだった。
けれどローズは野生の勘で攻撃を察知し、攻撃するために飛びかかるより早く飛びずさる。
(良い勘だ)
ライエンバッハは今度は自分から前に出る。
オニワカはグッとかがみ込んで力を溜めると、すさまじい勢いで前に飛び出した。
「は、速っ!?」
「ぬうんっ!」
ライエンバッハが放つのは切り上げ。
中段に構えていたためやや威力は低く、その分速度の速い一撃だ。
ローズはそれに剣を合わせる。
響く剣と剣のぶつかり合う音。
結果は引き分け――両者は少しずつ後ろに下がって、距離を取り直す。
その後も攻め手はくるくると入れ替わる。
そしてその度に剣が閃き、光が瞬いた。
「おおっとこれは、なかなかすごい剣戟の嵐ですね」
「大して動体視力が良くない僕からすると、ほとんど何もわかりませんよ」
「たしかに、あの二人の間に入れば即座に切り刻まれてしまいそうです」
めまぐるしく動く状況の中、実況の声が聞こえてくる。
けれど目の前のことに精一杯なローズは、その声を音としてしか認識できていなかった。
目の前の剣戟を処理することで、彼女の頭はいっぱいいっぱいになっているのだ。
冷や汗を掻きながら、ローズはライエンバッハの攻撃を受け止める。
ガィンッ!
硬質な音が鳴り、ローズは再度押し負ける。
アリアケの機体に、また新たな傷が刻まれた。
(速いわけじゃない、でも……こんなに隙がないなんて!)
ローズはオニワカの後ろを取り、剣を振る。
けれどオニワカはまるで後ろに目がついているかのように、その一撃を正確に受け止めてみせる。
アリアケとは対照的に、オニワカにはほとんど傷らしい傷はついていない。
戦いはほとんど一方的な形で進んでいた。
ローズの攻撃ターンの方が長い。
彼女の一撃は鋭さと、そして勘の良さがある。
相手が攻撃してくるタイミングを見越して攻撃。
相手が回避しそうなら、回避した後に居る場所へ攻撃。
先回りをし、未来予測をしようとするのだから、失敗することの方が多い。
けれどやり合っているうちに、その精度は上がっていく。
それを見て空恐ろしくなるのは、ライエンバッハの方だ。
(戦いの中で成長する……言葉で言い表すと陳腐だが、彼女にはまだまだのびしろがある)
ライエンバッハが速度で勝るローズの攻撃をいなして反撃をすることができるのは、今までの経験があるからだ。
円熟の域に達した見の技術はローズの動作の起こりを見れば相手の攻撃をいくつかに絞ることができる。
そこにローズの傾向を加味すれば、速度では劣っていてもカバーが可能だった。
「だが私を追い越すには――流石にまだ、技量が足りない」
「う、がっ……」
ライエンバッハの渾身の一撃。
回避後の硬直を突かれた形になったローズは、その一撃を避ける術を持たなかった。
アリアケの機体が裂ける。
中から出てきたローズは、意識を失っていた。
ライエンバッハはオニワカの手でそれを受け止め、そっと地面に置く。
救護班が駆け寄ってくるのを確認してから、ライエンバッハが視線を上げる。
そこには――わくわくした顔で自分のことを見下ろす、トッドの姿があった。
戦いの直後で心が猛っていたライエンバッハは、一度深呼吸。
そして少し気持ちを落ち着けてから――こくりと頷く。
こうして決勝戦はトッド対ライエンバッハという、因縁の師弟対決と相成るのだった――。




