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怖気


(これは……なんだ?)


 ぞわり……とトッドの背筋に何かが走る。

 その感覚のおぞましさに震えながらも、トッドは剣を走らせた。

 彼の一撃はそのままタケルの不知火へ入る。


 撫で切りにされた不知火の胸部には、大きな凹みができた。

 攻撃を受けて形を変えたことで、機体の接合部にわずかな隙間が生まれる。

 そして機体の内側から、タケルの瞳が見えた。


 ゾクッ!


 トッドは危機を察知し、大きく下がる。

 けれどそれに追従するように、不知火の剣はトッドへと迫った。


 一撃を放った直後のわずかな隙。

 タケルは攻撃を食らいながらも、己にやっていた反撃のチャンスを逃さぬよう、窺い続けていたのだ。


 トッドのムラクモが攻撃を受ける。

 傷は浅い。

 先ほどの自分が与えたダメージと比べれば微々たるものだ。

 けれどその傷は、試合が開始して以降トッドが初めてつけられた傷だった。


「おおっとぉ、タケル選手のカウンターが綺麗に決まったぁ!」

「肉を切らせて骨を断つ……というだけでもないようですね」


 ハルトが言い切るよりも早く、今度はタケルが前に出た。


 キラリと光る瞳には、炎が揺れる。

 そしてその強い輝きは尾を引き、流れ星のように光っていた。


「――くっ!?」

「はああああああっっ!」


 タケルの剣が迫り、トッドへと迫る。

 先ほどまで簡単に捌くことのできていたはずの攻撃は、既にトッドをして、全力を出さなければ対処できぬほどのものへ変わっていた。


(これがタケルの力……)


 一閃ごとに鋭くなる切れ味。

 一突きごとに威力の上がる突き技。

 剣を振る勢いはいや増していき、予備動作と技後硬直はどんどんと小さくなっていく。


 トッドは自身を観察されているような気分になった。

 ……いや、事実トッドはタケルに見られていた。


 最適な動き、最適な回避、最適な連撃。

 タケルはトッドの一挙手一投足を観察し、それを自身の動きに反映させている。


 トッドの動きを読み取ることで次の動作はより滑らかに、力の入れどころを間違えないものに変わる。


 戦う度に、剣を打ち合わせる度に成長している。

 トッドは今目の前にいるタケルを見据えた。


 そして――。


「ははっ…………ハハハハハハハッッ!!」


 トッドは――笑った。


 彼が感じたのは恐れでも、増してや自分追い抜かれてしまうかもという恐怖でもなかった。 感じたのは――喜び。


 今こうして天稟を見せるタケルと、戦うことができているという事実。

 自分の弟が見せた才能に、トッドは笑わずにはいられなかったのだ。


 トッドのムラクモには傷が付いていく。

 『見』をすることで、タケルの動きはますます洗練されていく。


 けれどトッドはそんなことには構わず、己の全てを出し尽くす。


「おおおおおおおおおおっっ!」

「はあああああああっっ!!」


 剣の花が舞い、剣の幻が現れては消えていく。

 攻守はめまぐるしく変わり、互いの機体にはどんどんと傷がついていく。


 それでもお互い、攻撃の手を弛めることはない。

 トッドはタケルに己の全てを授けるために全力を出し。

 タケルは誇りに思う兄に自らの刃を届けるために力を振り絞る。


 トッドは一瞬距離を取り、剣を下段に構えた。

 対するタケルは剣を上段に構え、それを迎え撃つ。


 交差――すれ違うその瞬間、お互いは己に出せる最大の一撃を放ち合った。


 ボゴンッ!


 剣が機体を叩く硬質な音が、会場の皆の耳朶を打つ。


 ドスッと大きな音を立てて、片方の機体が倒れる。

 残ったのは……。


「はあっ、はあっ……お疲れ様、タケル」

「……僕の……負けです。兄上は、さすが、です……」


 大破寸前のムラクモでなんとか姿勢を保っているトッドであった。

 こうして準決勝第一試合は、トッドの勝利に終わるのだった――。

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