しめしめ
とりあえず一日目の機動士トーナメントは終了した。
時刻は既に午後五時を超えており、そろそろ夕暮れ時に差し掛かろうとしているタイミングだ。
けれどトッドの一日は、まだまだ終わらない。
成人までは分家はしないため、トッドの身分は未だ王族。
彼は王家の人間として、選手として出場するだけではなく、王族の一員としてやってきている貴族達や有力者達の下へ訪問しなければならない。
今回は国王も来席しており、弟のエドワードやタケルもやってきている。
負担を分散させることができたおかげで、各貴族への挨拶回りは最低限で済ませることができた。
それだけではない。
トッドは機動鎧をハルトと共に開発した責任者として、機動鎧のプレゼンまでしなくてはいけない。基本的には外様の扱いを受けているハルトとレンゲだけで行った時に、舐められたり吹っかけられたりするのを恐れての判断である。
王国の各騎士団を訪問し、機動鎧の有用性や価格帯について話をした上で、販売までしなくてはならないのだ。
こんなんが王子のやることかと思わなくもないが、直接出向いた方が色々と早く話が済むのだ。
「ふむ、たしかにあの機動鎧の出せる出力はすさまじかったですな……」
「機動鎧同士の戦いだったので伝わりづらい部分もあるけど、装甲による防御力もかなりのものがある。オーガの棍棒の振り下ろしでも傷一つつかない」
「おお、それほどとは……」
現在トッドがやって来ているのは、会場からほど近い場所にある第一騎士団の詰め所だ。
リィンスガヤ全土を見るといくつもの騎士団があるが、その中でもリィンスガヤ王が自由に動かせる、この国の主力として用意されている騎士団は現在、第一、第二、第三の三つである。
第二騎士団は平民上がりのたたき上げが多く、第三騎士団は敵国での浸透戦略や破壊活動、調略などの頭脳的な働きを行えるよう訓練を受けた者が多い。
実際に隣国であるリィンフェルトと紛争をする際に矢面で戦うことになるのは、第一騎士団である。
そのためトッドはまず最初に、第一騎士団の鎧を機動鎧へと切り替えていくつもりだった。
「ちなみに機動鎧による騎士団内での序列は、ほとんど変わらないはずだよ。ローズやタケルのような一部の例外を除けば、機動鎧を使った時のスペックは実際の身体能力に比例するからね」
「それは安心材料ですな」
基本的なプレゼンを終えた段階で、騎士団の分隊長以上の者達の反応を窺う。
話を聞いて回るが、かなりの好感触だ。
「魔法の威力と射程が上がったせいで、我ら純粋な騎士団の果たせる役割が減ってきましたからな。この鎧を使った時のあやつらの憎らしげな顔が目に浮かびます」
「魔法使いは今後後方支援が増えていくことになると思う。多分だけど、騎士団には国からのどんどん予算がつくことになるだろうし、定員も拡充されていくことになると思うよ」
「「――おおっ!!」」
けれど話がこと機動鎧の価格になったところで、急激に皆のテンションが落ちてしまった。
「き、金貨……二百枚ですか……」
「これは……ちょっと今までの全身鎧とは桁が違いますな……」
リィンスガヤの王国騎士団は、かなりの高給取りだ。
けれどそんな彼らをして、思わず手を出すのをためらってしまうほどに、機動鎧の値段は高い。
ある程度量産ができるようになったとはいえ、機動鎧には大量の魔物の素材と魔法使いの付与された魔法がかかっている。
全身が魔道具そのものと言っていい機動鎧の値段は、未だ一番のネックである。
量産をすればするだけ廉価にはなるはずだが、生産が追いつき価格が落ち着くまでにはまだしばらくの時間がかかることが予想された。
「けど実は……これを見て」
そう言ってトッドが取り出した資料に、皆が目を向ける。
そこにはでかでかと鎧補助修繕費と書かれた項目があった。
「鎧の補修に関する修繕代は国の費用で出すっていうルールがあるでしょ?」
「はい、紛争で傷ついた鎧の修繕は半分ほど負担してもらえます」
「その修繕費を前例って形にして予算を取ってきたから、とりあえず三割負担で大丈夫なように父上と話はつけてきたよ」
「三割負担となると……金貨六十枚ですか」
「それならまあ、なんとか……」
トッドはこうして第一騎士団の人間に、機動鎧を一つ当たり金貨六十枚で卸していく契約を結ぶことに成功した。
ちなみに予算を取ったというのは事実だが、言っていないこともある。
今後機動鎧の生産が軌道に乗れば、価格が更に安くなるという点についてだ。
もし今後機動鎧が廉価になれば、その差額分は王家の懐に入ることになる。
生産責任者であるトッドやハルトにも割合で分け前が入ってくるので、頑張れば頑張るだけ得ができる仕組みだ。
(今のうちに将来に備えて蓄財もしていかないとね。領地を持つってなってからお金がありませんでしたじゃ、話にならないし)
こうしてしめしめと笑うトッドは、無事機動鎧を騎士団に認めさせ卸すという大目的を達成しつつ、ついでに将来に備えての金稼ぎの手段も手に入れることにも成功したのだった――。
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