期待
「第四試合のカードは……レンゲ選手対ライエンバッハ選手ですね。これが一回戦の最終試合となります」
「あ、ちなみに機動鎧はある程度の蛮用にも耐えられるよう作ってますから連戦も可能なんですが、今回の機動士トーナメントは一日一試合ということになってます。ですから続きは明日になりますね」
「機体性能を完璧に引き出すための処置ですね」
「メンテナンスをしないとすぐに壊れてしまうようなことはないので、騎士団の関係者方もそこはご安心下さい」
二人が話をしているうちに、レンゲとライエンバッハは壇上に上がっていた。
右側に居るライエンバッハと左に居るレンゲの様子は対照的だ。
「はぁ……ついてないですよ、ホントに」
レンゲは最初からどんよりとした空気を醸し出していた。
対しライエンバッハの方は胸を張り、泰然自若としながら操作感をたしかめていた。
まるで真逆の様子の二人を見て、エドワードは首を傾げる。
「これは……一体どういうことでしょうか、ハルトさん」
「レンゲちゃん……レンゲ選手は機動鎧の開発を進める傍ら、機動鎧そのものに精通するために自分でも搭乗しては性能チェックを行ってました。戦闘訓練の相手として、ライエンバッハ選手と何度も戦ったことがあるわけです。まあぶっちゃけちゃえば……長年親衛隊長をしているライエンバッハ選手の実力というのは、半端ないわけで」
そうこうしているうちに二人とも機動鎧に乗り込み、試合開始の時がやってきた。
「それでは一回戦第四試合――はじめっ!」
「胸を借りますよ、ライエンバッハ卿!」
レンゲは試合開始と同時に剣を構え、飛び出していく。
彼女はアキツシマの人間であり、剣の構えはリィンスガヤのそれとはまったくの別物だ。
初撃必殺。
最初の一撃で相手を真っ向から斬り伏せ、意志ごと真っ二つに叩き斬る。
一切の防御を捨てた攻めの剣術こそが、アキツシマに数多ある流派に共通している基本理念である。
サザンカに乗ったレンゲは剣を最上段に構え、そのまま前に出る。
四足で地を駆ける獣のように背を丸めながら、ただ剣を振り下ろすことだけに専心するその様子には、鬼気迫るものがある。
「はああああああああっっ!!」
「ふむ……」
だが彼女に対するライエンバッハは臆するでもなく、ヴィッツラート流の唯一の構えである正眼のまま、迫り来るレンゲをゆっくりと観察していた。
「ぜあああああっっ!!」
レンゲの放つ、必殺の振り下ろし。
ライエンバッハは剣と剣がぶつかり合う瞬間にわずかに腰を下げ、一撃を受けた。
「勢いはいい、威力も乗っている……だがまだまだ」
返す刀で一撃。
攻撃に全振りしてレンゲはそのカウンターをモロに食らう。
だが機動鎧の耐久性は高く、機動鎧同士のぶつかり合いであっても一撃で勝負が決まることはない。
「今のは……?」
「身体のバネを使って、レンゲ選手の攻撃を受け止めきったのでしょう。僕には剣の術理はわかりませんが、その勢いを使ってカウンターを放っているようにも見えましたね」
一撃一撃の速度と勢いに関しては、レンゲの方に分がある。
けれど彼女の攻撃はその尽くを防がれ、ライエンバッハの放つ一撃はレンゲの装甲を削いでいく。
ライエンバッハとレンゲでは、文字通り年季が違う。
レンゲはテスターとして長年強化兵装を動かしてきていたため、全体的な操作性能は高い。 だがライエンバッハには己の身一つで戦場を駆け続けた経験と、その過程で培われ、磨かれてきた実戦的な技術がある。
それは単に剣術に限ったものではない。
自分にできることとできないことをしっかりと把握する力。
相手の呼吸を読む力。
己の領域に相手を引き込み、逆に相手の領域に自分が持ち込まれぬように戦闘を調整する観察眼。
それら全てを持つライエンバッハは、既に全盛期を過ぎているにもかかわらず、圧倒的な力でレンゲを叩きのめした。
「ま、参りました……」
「勝者、ライエンバッハ!」
ライエンバッハは機動鎧を脱ぎ、空を見上げる。
その顔には今の試合に対する不満と、未来に対する期待があった。
(このまま私が勝ち進めば……準決勝でタケル殿下と、決勝でトッド殿下と当たることになる。ロートルとはいえ、まだまだ若い者に負ける気はないが……)
だが、それでも。
もし彼らが、自分を超えていってくれるのなら。
きっと寂しさと、それに勝る喜びが胸を満たしてくれるはずだ。
こうしてそれぞれが様々な思いを胸に秘めて、機動士トーナメントの一日目は、大盛況のうちに終わるのだった――。




