見切り
瞬撃。
一瞬のうちに叩き込まれる斬撃の嵐。
上に飛び、下を這い、横から不意に襲いかかるその乱撃を前にしても、ローズは怯まない。
嵐を迎え撃つは、頼りなく小さなそよ風。
有明の攻撃の尽くは防がれ、対し相手のサザンカの攻撃はその尽くが命中する。
機体に新たな傷が刻まれていく。
傷の上に傷が重なり、十字になり、更に重なって星印が出来上がる。
機体が悲鳴を上げる。
機体越しにやって来る衝撃から苦悶の声が出てくる。
けれどローズは――更に前へと進む。
「おおっとこれは……ローズ選手、相手の攻撃を食らうことを覚悟の上で前に出ました!」
「当たり前ですが、純粋な剣術では騎士団でブイブイ言わせてるイグニス選手と未だ年若いローズ選手の間に開きがありすぎますからねぇ。それを覆すためには――不利を覚悟で、前に出るしかない。いつだってチャンスは、それを掴もうと前進したものにしか与えられないのです」
解説の声も、周囲の喧噪も、今のローズには聞こえていなかった。
色彩豊かだったはずの世界は、モノクロに変わり。
今ここに居るのは、自分と相手の二人きりだ。
(身体が痛い。思い通りに動いてくれない。でもどうしてだろう……自分でもびっくりするくらい、落ち着いたままだ)
それは不思議な感覚だった。
まるで世界が色を失い、時を止めたかのようにゆっくりと流れている。
けれど自分の動きだけは今までと同じ速度であり。
相手の攻撃にだけ、鮮やかな色が浮かび上がっている。
「――ここだっ!」
ドガンッ!!
音の爆発、次いで広がる衝撃。
衝撃波が円形に拡散していく。
そしてその中心に居るのは……。
「――何ッ!?」
必殺の一撃を放ったイグニスと、その一撃をしっかりと受け止めきったローズだった。
「あんたの攻撃は――見切ったッ!」
ローズの瞳の動きに合わせて、光の線が描かれていく。
そしてこの試合が始まっていこう初めて、攻守が交代した。
今度はローズが攻め、イグニスが守る番だ。
多彩さと変幻自在さ、どんな相手に対しても臨機応変に対応できる柔軟性がシーパ流剣術の何よりの強みだ。
シーパ流剣術は時に相手の力すら利用する柔の剣となり、時に相手を力尽くでねじ伏せる剛の剣となる。
「――ぐうっ!?」
けれど今、イグニスはローズの攻撃に適応できていなかった。
レイピアによるローズの攻撃は、突きを主体とした細やかな連撃によって構成されている。
イグニスが突きに対応すべく、相手の剣を巻き取るために柄を長めに持ち替えて技を使うための準備を整える。
けれどその時には既にローズは、突きの姿勢から強引に制動し、攻撃の種類を切り払いへと変える。
結果としてイグニスの攻撃は空振りに終わり、サザンカの胸部をローズの剣が浅く切り裂いた。
「おっとこれは……どういうことなんでしょうか殿下。いきなりローズ選手の方が優勢になったように思えますが」
「ローズ選手は……恐らく相手の呼吸を読んでいるのです」
「呼吸、ですか?」
「はい、技を出す際の挙動や予備動作、そういった相手のクセを読み……相手の技の後の先を取って己の攻撃ターンを続けているのでしょう」
「見ている限り、そんな考えて動いているようには見えませんが……」
「恐らくは計算や論理ではなく、本能でそれらを読み切っているんでしょう」
戦場に咲く赤き薔薇――ローズ・フォン・ヴィンセント。
研ぎ澄まされた対人戦の冴えと、圧倒的な成長速度。
彼女は一合一合から新たな何かを吸収しながら、イグニスを圧倒し始める。
イグニスの攻撃はスカされ、いなされ、防がれる。
対しローズは野性的な勘で間隙を縫い、サザンカの機体にダメージを与えていく。
優勢と劣勢が完全に逆転していた。
「ば……バカなっ!? こんなことが、あっていいはず――」
「――そこっ!!」
驚愕から生まれた、わずかな意識の間隙。
ローズは生まれたその一瞬を、決して逃さない。
ローズの突きが、思い切り入る。
そして胸部に突き立った一撃が装甲を剥ぎ、中にいるイグニスの姿を露わにする。
「女だからって、甘く見ないで」
見下ろされ、剣を突きつけられて……イグニスはふぅ、と大きく息を吐いた。
「俺の負けを認めよう……降参だ」
こうして第三試合は、ローズの勝利で幕を下ろすのだった――。
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