信じて
「ふっ!」
「せいっ!」
上段から襲いかかるイグニスの剣を、ローズは身体をねじることでひらりと躱す。
そしてねじった腰を元に戻しながら、一撃。
既に下段に剣を構え治していたイグニスはそれを冷静に受け、一歩下がった。
ローズも合わせて一歩下がったため、両者の間に少しの距離ができ、空白が生まれる。
「すうっ、はあっっ……」
ローズは攻防の際に息を止めていたため、深呼吸をして大きく息を吸って吐く。
対するイグニスは呼吸の乱れ一つなく、剣を正眼に構え直していた。
イグニス操るサザンカが取るのは、王国流の正統派剣術であるヴィッツラート流……ではない。
ヴィッツラート流は正眼……つまりは中段の構えを技の始点にする流派だが、彼の技の起こりは上段・中段・下段の三点だ。
それぞれを基点とし、臨機応変にそこから技を繰り出していく。
「おっと、イグニス選手が使っているのはシーパ流剣術ですね」
「殿下、自分は剣術にはめっぽう疎いんですが、シーパ流は強いんでしょうか? 一応、王国で正式採用されているのはヴィッツラート流だったかと思うのですが」
「――強いですよ、使い手の数自体はかなり少ないですが……同程度の使い手であれば、ヴィッツラート流の剣士をしのぐくらいには」
「そんなに強いのなら、シーパ流を正式採用すればいいように思えますが……」
「それがそういうわけにもいきません。簡単に言えば……シーパ流を会得するのはかなり難しいんです。たしかリィンスガヤの騎士団でも、扱える人間は片手で足りるほどしかいなかったように思います」
シーパ流には技の基点が三つあり、そこから繰り出される変幻自在の技が強みである流派だ。
基本は攻撃は上段から、防御は下段からというパターンが多いが、攻撃と防御の方法は多岐に渡っているため、採れる選択肢が多い……というか、多すぎるのだ。
次の行動に移る際に、即座に最適解を導き出せるものでなければ、シーパ流を使いこなすことはできない。
「ヴィッツラート流は良くも悪くもシンプルですから、一度覚えさせるまでに掛かる時間も短く、使えるようになるまでも早いです。反復練習も簡単ですしね」
「なるほど……要はコスパがいいって話ですか」
ハルトのあまりにあけすけな言い方に、観客席がざわつき始める。
このままだと野次が飛びかねないほどに声が大きくなり始めた。
その様子に苦笑するエドワード。
「けれどそのシーパ流を完璧に収めているイグニス選手と渡り合えているローズ選手のすごさが際立ちますね。おまけにローズ選手はまだ若干十歳ということですし……将来が楽しみな逸材なことは間違いありません。ハルト、ローズ選手の乗る機体についての説明をしてもらってもいいですか?」
「はい、もちろんです! ローズの乗る機動鎧有明の持ち味は、なんといっても瞬発的に出る出力の高さです! 高速機動を維持できるように機体のボディを細かく削ったり、気泡が出るように加工をして重さを減らしたり……とにかくスピードを出せるよう特化した機体でして……」
ハルトは怒濤の勢いで説明を始める。
そしてその説明が終わらぬうち、今度はイグニスが攻めに転じたため、結果として騎士団員達が暴発することは避けられた。
けれど自分が開発した機動鎧の解説に夢中になっているハルトは自分が地雷を踏んでいたことも、それを自分で解除したことにも気付いていないのだった……。
(ちっ、守るのは性に合わないのよっ!)
先ほどまで攻め立てていたのが反転、今度はイグニスの攻撃ターンになった。
「ぬんっ!」
イグニスの振り下ろし、その速度はそこまで速くない。
冷静に横に飛んで回避。
けれどローズが回避するのに合わせ、途中で剣の軌道が直角に変わる。
「ちいっ!」
ローズの機動鎧――有明はスピード特化型。
伝達速度も速いため、迎撃自体は可能。
ローズが腕を振れば、それに合わせて有明が人体に不可能な速度で迎撃に動く。
有明が握るのは青く輝くレイピア――機体に誂えて作られた、シーサーペントの牙を使って作られた細剣だ。
細身ながらも耐久性に高く、とある特性を持っている。
細剣を振り――ローズは咄嗟に手を引っ込めた。
そして防御を捨て、思い切り左側に転がる。
すると先ほどローズが迎撃をしようとしたあたりで、またイグニスの剣閃が変化する。
蛇のように剣を絡み取るような動きを見て、内心で冷や汗を掻く。
あのまま迎撃をすれば間違いなく剣を持っていかれていただろう。
「――もうっ! やりにくいったらありゃしない!」
イグニスの剣は捉えどころがなく、今までの定石が通じない。
剣を振ろうとすれば対応され、防御しようと思えばすかされ、回避しようと思えば追い打ちをかけられる。
故に攻撃を食らうのは常にローズ。
有明自体、ローズ専用にトッド達が誂えた機体なので、その性能はサザンカより高い。
だが今傷だらけなのは有明の方であり、ローズは機体性能を物ともしないイグニスの剣に翻弄されていた。
(このおじさんは……強い。けど……タケルほどじゃないっ!)
このまま言えば先に機体が悲鳴を上げるのは自分の方だ。
これ以上、重たい一撃をもらうわけにはいかない、
いくつかの攻撃パターンは覚えた。
相手の剣技の呼吸も徐々に掴みつつある。
であれば、今できることは――。
「自分を信じて……進むだけっ!!」
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