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世界に








「それでは会場設営が終わり次第、第三試合に移りたいと思います」

「いやぁ、すみませんねぇ。あそこまで真剣に戦ってると、解説なんかしても邪魔っ気な気がしちゃって」

「僕も完全に見入ってしまいました。先ほどのタケル選手の勝因は、やはり機動士としての腕の差、ということになるんでしょうか? ガールー選手の攻撃は、全てタケル選手によって斬り伏せられていました」


 遠距離と近距離が戦ったらどちらが強いのか。

 当たり前だが距離があるのなら、一方的に攻撃ができる遠距離の方に分がある。


 今回の試合は中距離からガールーが一気に弓で相手の移動を阻害しながら動いたことで、距離を引き離すことに成功し、実質遠距離での戦いになる場面の方が多かったように思う。 けれど結果だけ見れば、タケルの圧勝だった。

 エドワードの疑問は当然と頷きながら、ハルトは人差し指を立てる。


「これはもうタケル殿下の機動鎧捌きが圧倒だったの一言に尽きますね。性能自体は不知火の方が高かったけれど、純粋な相性だけ見ればスラントの方に分がありましたから」

「魔物素材、魔力含有金属に魔法を掛け合わせて機体を作れば、遠距離からの攻撃をする相手だったとしても互角以上に戦うことができるというわけですね」

(おや? ……あぁ、なるほど)


 エドワードの言い方に、機動鎧の効果をアピールする狙いがあったことを理解したハルト。 魔導師の時代が終わり、再び騎士が戦場の花形となる時代がやって来る。

 既に過去のものとなってしまっている、騎士同士がぶつかり合い火花の散らし合う戦場。

 その再来が来ることを示唆するかのように、ハルトは機動鎧を持ち上げた発現を続ける。

 その言葉に機動士トーナメントを見に来ている騎士団の団長や副団長達から声が上がった。

(まあ実際のところ、遠距離型や水中型の実装が控えてたりはするんだけど。機動鎧の魅力はその性能だけじゃなくて、応用性の高さと量産性にもあるし。上の方の人達には肯定的な材料だけを与えて、とにかく機動鎧を標準的な兵装にさせた方がいいとエドワード殿下は考えている……この子、まだトッド殿下よりも年下だよね?)


 目的のために与える情報を取捨選択し、冷徹に切り捨てるべきポイントと拾い上げるポイントを分けている。

 にこにこと笑うその笑みの裏側で、エドワードは一体何を考えているのか。

 それを考えると、ハルトは少しだけ背筋に寒気を感じた。


 そしてそんなことを知らぬエドワードは、騎士団や貴族達が説明の度にうんうんと頷いている様子を見て、にこにこと無邪気な笑みを浮かべるのだった――。



 残る選手はローズ・トティラ・ライエンバッハ、そして機動鎧を貸し出してほしいと妖精をしていた王国騎士団から一人。

 機動鎧その物の有用性を改めて周知させるために、事前に騎士団員から一人人員を募り、練習をさせていたのだ。


 目新しい奇想兵器だと思われていた機動鎧の装着及び練習することを希望する騎士団員は決して多くはなかった。

 けれど……。


「私がやります。騎士の時代を取り戻せるというのなら、多少の労苦や批難など屁でもない」


 王国第二騎士団副団長、イグニス・ランパード。

 平民から実力一本で成り上がったたたき上げ集団を実質的に取り纏める彼は、そう言って不敵に笑ったという……。



「新しい時代は、残酷だな……」


 量産型のサザンカに乗るイグニスは、そう言って壇上に上がる。

 右胸にはイグニスが決めたランパード家の紋章である燃え盛る炎が刻印されており、その機体はオレンジ色に染め上げられていた。


 それに対するは――真っ青で細身の機体、有明に搭乗するローズ・フォン・ヴィンセントだ。

 彼女は機体に自家の紋章は入れていない。


 そもそもローズは、自分の家名が大嫌いだった。

 父のことやその誇りについて口酸っぱく言う母親の戯れ言を、常に鬱陶しいと思っている。

「何それ、どういう意味よ?」


 ローズは機動鎧に乗り込み、壇上に上がる。


 燃える炎のオレンジと、澄み切った青。

 二つの機体が戦いの時を待つ。


「戦えるというだけで、女子供までが戦場に立たされる……殿下のお気に入りとはいえ、到底受け入れられるものではない」


 イグニスはエドワードやハルトの言葉に躍らされてはいなかった。

 彼はどんな人間であっても、適性と鍛錬さえあれば機動鎧の乗り手になれてしまう恐ろしさを、肌身で知っていたからだ。


 彼は新たな時代の幕開けが国民皆兵という地獄の蓋を開けるのではないかと、漠然と危惧していた。

 だからこそこう決めていた。


 ――自分が最後まで勝ち上がり、騎士こそが機動鎧に乗るべしということを知らしめると。

「はんっ!」

「何がおかしい?」


 だがローズは、そんな決意を鼻で笑う。

 自分のことをトッドのお気に入りと言われたことは嬉しかったが、いちいち自分のことを下に見るイグニスのことはどうにも好きになれそうにない。


「とんだお笑いぐさね。だってあんたはこれから――自分がバカにした、女子供に負けるんだもの」

「……弱い犬ほど、良く吠えるものだ」

「吠えられるだけ上等! 私は何度だって吠えて、叫んで、世界に示してやる! 私が――このローズが、誰にも負けない最強であることを!」


「それでは第三試合――開始ッ!」


 青と橙が交差する。

 第三試合は互いの力をぶつけ合う、剣と剣との激突から始まった――。

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