適性
魔導弓サジタリウス。
魔法を使わずに魔力によって生み出された矢を打ち出すことのできるこの弓型の魔道具は、トッドとハルトが戯れに作り出したいわゆる試作品である。
魔法を使わずに使えるため魔法使いとしての鍛錬を行う必要がないというメリットがあり、そして使う魔力量が多いためにそもそも使い手がいないという特大デメリットがあった。
しかしその問題を解決した男がいる。
それが山の民であり、トティラに姉を奪われ憎しみに駆られていたガールーである。
彼は年若いながらに身体能力も高く、また向上心にも長けていた。
強化兵装の使い手として幾度もトッドと戦場を乗り越えてきたガールーは、既に新兵ではなくなっていた。
魔導弓サジタリウスを強化兵装による豪腕で引けば、その威力はとてつもないものになった。
元々それほど高くない魔法の矢自体の威力は、強化兵装で補うことができたため、欠点をさほど気にする必要もなくなっていた。
そして機動鎧の乗り手になる人間は誰かとトッドがハルトやレンゲ、ライエンバッハと共に話をしていると、やはりガールーのことが俎上に上げられた。
向上心が高く、将来有望な若手であり、魔力量も十分。
おまけに騎士団員とは比較にならないほど巧みに弓を使いこなすことができる。
「そうだ、それならあのビッグクラブの歩脚を使えばいいじゃないか!」
「はぁ……? たしかに弾性もありますし素材にできるかどうと聞かれたらできるとしか答えられませんが……あれだと腕の長さが違いすぎて、相当巨体にしないと人体に近い動きができないですよ」
「いや、腕だけを伸ばす形にすればいい! 基本的にはサザンカの機体を流用する形で、腕だけが長い特殊機体を作ればいいのさ!」
「それだと量産性に難があるのでは?」
「弓が使える機動鎧が作っておきたい、ということですかな?」
まるで答えを知っているかのようなライエンバッハの問いに、トッドは頷く。
その目はキラキラと輝いており、既に頭の中が高速で回転し始めているハルトの目も同じように輝いていた。
「弓持ちの機動鎧……本来ならもう少し後から着手するつもりだったけど、折角弓の使い手である山の民達が大量にいるんだ。であれば前倒しで進めても問題はないはず!」
「なるほど、たしかに今後のことを考えると遠距離攻撃手段を持っている機体があるのとないのとでは雲泥の差だぁ……さすがですね、トッド殿下」
というわけでまずは二人が意見を出しまくり、それをレンゲがまとめる形で話がまとまった。
サザンカから腕を取りビッグクラブの腕を繋げるだけでは明らかにバランスが取れず、色々と試行錯誤をした上で機体そのものを大きくする形で問題を解決した。
それこそが未だ戦場に出たことはなく、今回初お披露目となる遠距離型機動鎧――スラントである。
「貫け――サジタリウスッ!」
ガールーが放った渾身の一撃。
ビッグクラブの歩脚と機動鎧の高出力、そしてガールー自身が持つ弓の精度。
それら全てが合わさった必殺の一撃を――タケルは手に持つ大剣で、思い切り迎撃した。
「はあああああああっっ!」
紅蓮に光る炎の矢を、タケルは真紅の機体である不知火で迎え撃つ。
一撃で、魔法の矢の勢いが若干弱まった。そこにクロスする形で二撃目を、そして最後に全てを貫通する勢いで三撃目の突きを。
目で追えぬほどの高速の連撃は、サジタリウスの魔法矢を正面から打ち破ってみせた。
ガシン……と脱力した不知火が、スラントを見据えていた。
ガールーは距離を維持しながら再度サジタリウスを引き絞り、矢を放つ。
不知火は一度目でコツを掴んだのか、今度は二撃で矢を掻き消してみせた。
スラントを操縦するガールーは冷や汗を掻いていた。
彼は目の前にいる強敵を見て、強張った表情で笑う。
(トッド様の弟御とは聞いていた。けどこいつは……明らかにレベルが違うぞ)
機体性能に振り回されているわけでもない。それどころか完全に使いこなしている。
そして動けば動くほど、不知火の動きは淀みなく、その動作は人間と変わらぬほどに滑らかだ。
機動鎧の性能は肉体の性能に大きな影響を受ける。だがそれだけが全てではない。
やはり機動士としての適性というものは存在する。
自分の身体ではないものを動かす以上、機動鎧と実際の動きとの間には乖離が出て当然なのだ。
だからこそ、スラントのような人体ではありえない構造の機動鎧であっても、動かすことができるのだから。
だが目の前の不知火には、それがない。
その適性の高さは、生まれ持っての機動士としての才能故のことなのだろうか。
「――ちっ!」
徐々に近付いてくる不知火に対し、ガールーはステージの端を移動する形で距離を保とうとする。
すうっと大きく息を吸い、一瞬目を閉じる。
集中は一瞬。
再度目を開いた時、体外へ出る魔力が爆発的に膨れ上がった。
「――増殖矢ッ!」
スラントが再度矢を放つ。
けれどその軌道は直線ではなく曲線。
曲射された矢は、不知火の頭上までやって来ると突如として弾け、いくつもの矢に分裂して襲いかかった。
砂煙が巻き上がり、不知火の姿が見えなくなる。
けれどガールーは狩人として鍛えた耳を使い、相手の居場所を捕捉し続けていた。
「連矢ッ!」
続いてスラントは、自分の長い腕を最大限利用し、右腕と左腕をギリギリまで伸ばした。 まるでそれ自体が一本の弓にも思えるほどにしならせたその両腕。
右手端の弓から左手端の持ち手に至るまでの矢が生成されていく。
その数は四。
四本の矢が、まるで繋がれているように淡い光で繋がっている。
矢を放つと、その矢が途中で分離した。
そして四連撃となって不知火へと飛んでいく。
その結果を見ることなく、ガールーは再度矢を装填する。
「連矢……」
先ほどと同じく生まれる四本の矢。けれど、そこから先が違った。
「合成……」
四本の矢を繋ぐ光が強くなり、魔法矢の光と重なり合っていく。
そして一本の長く細い矢が生まれた。
「更に圧縮……」
けれどそれだけでは終わらない。
輝きが増していき、細長かった矢が徐々に太く、短く変わっていく。
準備を終えた時、そこには一本の矢を機動鎧の力をフルで使い引き絞っているスラントの姿があった。
「――シッ!!」
ガールーが放てる最大の一撃。
矢を合成し、圧縮し放つ最大威力の矢が放たれる。
そしてそれを迎え撃つように――不知火が飛び出してくる。
攻撃を被弾した影響で、表面は焦げている。
赤かったカラーリングは砂と焦げ付きで黒く変色している。
けれど……それだけだ。
不知火の動きには、いささかの陰りも見えない。
「――ぜああぁっ!」
ガールー最大の一撃を、タケルは斬り伏せた。
そして返す刀で――そのままスラントの胸部に剣を突きつけた。
「は、はは……ここまでして、届かないのか……俺の負けだ」
こうして第二試合は、タケルの勝利で終わるのだった――。
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