第一試合
「行きます――先手必勝ッ!」
まず最初に動き出したのは、ランドンだった。
彼が乗るのはサザンカ。
量産型機動鎧として開発された、機能性より生産性を重視して作られている機体だ。
機動鎧は機動士のモチベーションを保つため、及び個体の識別を容易にするために、起動士が好きな色に着色することが許されている。
ランドンは己のサザンカを紫色に塗っていた。
サザンカに用意されている兵装はバックルで留められている短剣と、背中にかけられている大剣だ。
まずランドンは後ろに提げている大剣……ではなく、腰に提げている短剣を抜き取って前へと駆ける。
「おっとここで大剣ではなく短剣を選びましたよ。これには一体どういう狙いがあるのでしょうか? ハルト、解説をよろしく」
「はいはい、お任せを。簡単に言えば、純粋にスピード勝負をした方が、サザンカとムラクモのからですね。サザンカは量産性と継戦能力にリソースを割いている、割とバランス型の機体になります。対するムラクモは、戦闘の継続よりも瞬間的な爆発力を意識してチューンアップされているゴリゴリのパワー型。力比べとなれば分が悪いことがわかっているが故の選択でしょう」
ハルトの予想を裏付けるように、ランドンの操るサザンカは短剣を使う軽い攻撃を仕掛ける。
トッドの方もそれに合わせる形で、大剣であるヤツシロではなく、機動鎧用の規格で作られた短剣を手に取った。
サザンカの持つナイフが突き出される。
ムラクモの攻撃はそれを弾けるよう、下側から振り抜かれていた。
重低音、金属同士がぶつかり合うインパクトがステージの土を吹き飛ばした。
連撃が放たれる。
まずは右側から、最も威力の乗る一撃を。
そしてその勢いを利用したままぐるりと身体を回転させて薙ぎを放ち、最後に軽い牽制の一撃を放ってから距離を取った。
ムラクモはその全ての攻撃を、いなし、弾くことで捌いている。
両者が離れたところで、おぉ……という感嘆のため息が会場から漏れた。
「ふふ、ランドン選手は自国の王子を相手にしているというのに一切のためらいがありませんね」
「そうですねぇ、これは国に叛逆するという意思表示でしょうか、ふふふ……」
茶化した様子のエドワードの言葉にハルトが追随する。
会場にいるのは皆王国騎士団の人間ばかりなので、二人のユーモアはまったく通用しなかった。
それどころかたしかに、お前何やっとんねんという眼差しがランドンを射貫く。
そんなことをされて泣きたいのは、むしろランドンの方だった。
(俺だってやりたくてやってるわけじゃないってのに!)
自らの国の王子を相手にしているというのに、その操作には一切のためらいがない。
けれどそれは「手を抜いたらその時は……覚悟しておくように」とライエンバッハから事前に忠告を受けていたからだ。
哀れなランドンに、最初から選択肢など残されていなかったのである。
ランドンは猛攻を続ける。
けれどその攻撃を、トッドが操縦するムラクモは容易く処理し続けていた。
「機体性能はさほど変わらないと先ほど言われていましたが、見ている限りはトッド兄上はランドン選手の攻撃を完全に捌いているように思われます。一体これにはどういう理屈があるのでしょうか?」
「機動鎧の操縦性は、あくまでも本人の身体能力に比例します。それに人より関節なんかの可動域は広めに取られているとはいえ、剣技や打撃もあくまでも本人が使える以上のものは……まあ使えない場合がほとんどです」
その曖昧な物言いにエドワードが首を傾げる。
けれどそれには軽く喉を唸らせるだけで答えはせず、ハルトは続けた。
「機体の速度はそれほど変わらないはずですので、これは単純にトッド殿下の肉体がランドン選手のそれを上回っていたということでしょうね」
「さて、それじゃあそろそろギアを上げるよっ!」
トッドが反撃に転じる。
彼はランドンがしたように、小剣で攻撃を続けた。
けれどその技の一つ一つの鋭さは、たしかにランドンのそれを上回っていた。
トッドの突きは風を裂き、サザンカの腕の可動域では回避の難しいところに一撃を放ち、相手の退路を徐々に塞いでから最中的に不可避の一撃を与える。
その詰め将棋のような戦い方に、会場からは再び感嘆のため息がこぼれた。
「これで――終わりだっ!」
そして最後の一撃、トッドが機動鎧のコックピットである胸部への攻撃が放たれる。
それは表面を覆う装甲を軽く傷つけたところで、ピタリと止められた。
「ま……参りました」
ガクッと項垂れる機体。
こうしてライエンバッハの鬼のシゴキの悲しい犠牲が一人増える形で、第一試合は無事トッドの勝利に終わったのだった。
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