トーナメント
トッドがタケル達の模擬戦を眺めていた時から更に一ヶ月の時間が経過した。
そしてようやく、機動鎧を実戦に配備できるだけの量、用意することができるようになった。
それに伴い、トッドは父である国王リィンガルディア四世へとある計画を進言する。
その進言内容とは、機動鎧を使ったとある国へ行う謀略であった。
秘匿作戦『丙二番』の内容は、簡潔に言えばアキツシマへの内政干渉である。
まずは両国の友好の証として、海洋国家アキツシマへリィンスガヤの騎士団を派遣する。
そしてその際に、機動鎧を始めとする各種兵装を見せることでアキツシマとの関係性をより深める。
更にあわよくば皇家で現在勃発している皇位継承問題に介入し、タケルを王位継承レースに参戦させる……というのが、一応の名目だ。
無論トッドの真の狙いはそこではない。
アキツシマとの友好は今後のことを考えれば必要だが、トッドの一番の目的は、アキツシマで起こるヤマタノオロチ復活イベントの攻略である。
飯島ハルトを引き抜いてしまった現在、アキツシマでは強化兵装はおろか、機動鎧の開発もまったくといっていいほどに進んでいない。
そんな現状でヤマタノオロチが復活してしまえば、間違いなくアキツシマは致命的なダメージを受けることになる。
今後復興が不可能になってしまうほどに甚大な被害を食らってしまえば、トッドでは処理できないようなアンコントローラブルな事態にもなりかねない。
ハルトを引き抜いた引け目もあるし、タケルの母であるミヤヒの故郷が灰燼に帰すのもよろしくない。
トッドのオブラートに包んだ、アキツシマへの征服行動とも採られかねない進言は、以前山の民征伐を申し出た時とは違い、斥けられることはなかった。
彼がエルネシア連邦を征服したその功績はあまりにも大きかった。
既に王位継承レースから外れているとはいえ、その発現は簡単に無視できるほど小さいものではなかったのだ。
無論、トッドは父達重鎮にはこれとはまた違った説明を行った。
「ハルトを始めとして、アキツシマには機動鎧の開発に適した、また機動士としての適性を持った人材が多くいます。それをごっそりと引き抜いてしまうのです。そうすればあちらの将来的な国力は下がり、それとは逆にこちらの力は増していくことになるでしょう」
もちろんこれも理由の一つだ。
作戦行動には、複数の意味を持たせておくことが好ましい。
なぜなら主目的の遂行が不可能になった場合であっても、副次的な目的の成功は可能な場合も多いからである。
実はヤマタノオロチの肉体を使って作ることが可能な、性能は高いがピーキーな機動鎧の製作も理由の一つだったりする。
今回のアキツシマ行に、トッドはいくつもの意味を持たせることにしていた。
願わくば今後のための布石を大量に打っておき、展開をこちらが望むものに変えていく必要がある。
こうしてトッド主導の下で、アキツシマの遠征計画は煮詰まっていくこととなる。
だがトッドは未だ王族の身。
指示を出せば、あまり気軽に動くこともできない。
そんなことをしては周囲に迷惑をかけ、かえって準備が遅れてしまうだろう。
簡潔に言えば、準備の最中にトッドは急に暇になった。
そして暇になったので、以前考えていた思いつきを実行に移すことにした。
それこそが機動鎧の戦闘能力を測定し、機動鎧同士での戦いのサンプルデータを取るための大規模な模擬戦――機動士トーナメントである!
技術班や物資班、リィンスガヤの人間がアキツシマへ行くための折衝を行う交渉班は、毎日てんやわんやで上を下への大騒ぎをしている。
だが実際に現地で戦闘をすることになる機動士達に、出立までにすることはあまりないのだ。
鍛錬に明け暮れるくらいしかすることがなかった彼らは、トッドの誘いに快く乗ってくれた。
こうしてアキツシマ出発を間近に控え、機動鎧の調整担当による無数の怨嗟を聞き流しながらも、機動鎧同士がぶつかり合う大会が私的に催されることとなったのだ――。




