幕開け
「――シッ!」
シラヌイがクサナギを振るう。
回転しながら放たれる、横の斬撃。
円軌道で放たれているはずだというのに、まるで直線かと見間違うほどの速度だ。
(……これ、既に昔の僕より使いこなしてるんじゃないかな)
自分が強化兵装から開発し、強化重装までこぎつけるまでには何年もの時間がかかった。
そしてトッドは物心ついてからというもの、絶えずライエンバッハ扱かれ続けてきた。
トッドのシラヌイ捌きは、トータルで十年近い月日を鍛錬と操作に使ったからこその実力だ。
彼自身の戦闘センスはあくまでも上から数えた方が速いという程度で、天賦の才を持っているというほどではない。
タケルに機動鎧をあげてから、まだ一年も経っていない。
それまで誰かに師事して剣を習っていたわけでもないし、軽く自己鍛錬をしていた程度だったはずだ。
(それなのにこれか……自信なくすなぁ。でもタケルを味方として頼れるようになった今は、彼が強くなってくれるのは決して悪いことじゃない)
もしかするとタケルの急成長には、ライバルの出現も関わっているのかもしれない。
そう思うのは、タケルの高速の剣をしっかりといなしカウンターを仕掛けるアリアケと、その機体に搭乗するローズの姿が見えるからだろうか。
「こんのぉっ!」
右から襲いかかる猛撃を左手で弾きながら、ローズは前に出る。
得物によって描かれる攻撃の機動を掻い潜るような形で接近し、突きを放つ。
「その程度ッ!」
「なんのっ!」
タケルは即座に、放たれた突きに全力が籠もっていないことを見抜く。
故に彼はローズの攻撃を、鎧の手甲で弾いて方向を逸らすことで避けた。
彼もまた前に出る。
両者の距離が、拳打の通じる距離にまで広がる。
少し手を伸ばせば手首を掴めるほどの距離になれば、もはや刀剣は意味をなさない。
二人がどさっと大剣を放り投げるタイミングは、ほとんど同じだった。
「せええええいっ!」
果敢に攻め立てるのはローズだ。
彼女はスラムで育った気質がそうさせるのか、守りよりも攻めを重視する傾向にあった。
アリアケによって強化された彼女の拳が唸る。
ストレートを放った後にすぐさま引き、フックを放てば、それはほとんど同時と見紛う速度でシラヌイへと襲いかかる。
「――ふっ!」
強化されているのは、何も腕力だけではない。
分厚い装甲で覆われた胸部は、強力な一撃を食らってもわずかな凹み程度で済む。
ローズと対照的に、タケルは攻めよりも守りを得意とする。
彼はあくまでも冷静にローズの攻撃を観察していた。
そして威力が高く避けなければ機体にダメージが入ると思った攻撃に対してだけ的確な対処をしていく。
そうでないものに関しては前に進んで勢いを殺すことで軽く食らったり、ジャブを腕目掛けて打つことで相手の動きを阻害、変更させることで処理していく。
タケルは攻撃すべきタイミングを見極めているが、ローズは攻撃を繰り返すことで自分の優位を作ろうとしていた。
「――っ、こんのおおっ!」
「甘いっ!」
猛攻一辺倒であるローズの攻撃は、ある種読みやすい。
タケルは攻撃を捌きながら、自分の体力を温存して立ち回る。
対しローズの方は常に全力。
当たり前だが、先に息が切れるのも彼女の方だった。
「――ぐうっ!?」
ローズが体力切れになり生じたわずかな隙を、タケルは見逃さない。
彼女の意識の間隙に、攻撃を挟む。
ピタリ、とその首筋に手刀が添えられた。
「……私の負け、降参よ」
素直に負けを認めたローズは、はぁはぁと荒い息を吐きながら機動鎧を脱ぎ捨てる。
タケルもそれにならい、シラヌイを降りた。
「お疲れ様、二人とも」
「――トッド兄!?」
「トッド様ッ!?」
突然の来訪に二人とも驚いているようで、目を白黒とさせている。
トッドの近くに駆け寄ってきたのは、実弟のタケルよりローズの方が早かった。
「トッド様、すみません、不甲斐ないところを……」
しゅん……と項垂れるローズを見て頬が引きつってしまう。
(これで不甲斐ないとか……戦う相手がタケルしかいないせいか、ローズもかなり感覚が麻痺している気が……)
二人の強化重装捌きは、同い年だった頃のトッドよりもはるかに高い。
恐らく機動鎧を来ている王国騎士を相手にしても、互角以上に戦うことができるだろう。
性能面では若干劣るシラヌイやアリアケであっても、彼らの機動士としてのスペックはやはり桁違いであった。
彼らが二人で研鑽を積み、オリジナルの機動鎧を身に纏い戦場を駆ける時には、果たしてどれだけ強くなっていることか……考えるだけで恐ろしくもあり、同時に楽しみでもあった。
(とりあえず、二人には優先して機動鎧を回すことにしよう。……そういえば僕やライがどれくらい強いのかって、正直まだよくわかってないんだよね。二人のことを言っているわりに、僕もライとしかまともに機動鎧で戦ったことはないし。基本スペックの違いで戦いにすらならないから、戦闘経験が中々積めないんだよなぁ……)
そろそろ、また新たな機動鎧が生産される頃だ。
これで恐らくタケルやローズ達だけではなく、トティラやガールー、ランドル達も機動鎧を配備することができる公算だった。
それだけ大量の機動鎧があれば、沢山の戦闘データが取れるのは間違いない。
(ただ戦うだけでもつまらないし……大規模な模擬戦でもやってみようかな? ヤマタノオロチと戦う前に、本格的に機動士達のデータを取らなくちゃとも思っていたし、いい機会かも)
こうしてトッドの思いつきで、機動士達の大規模な模擬戦である、機動士トーナメントが開催されることとなる。
それが大激戦の狼煙となるなど、この時のトッドはまったく思ってもいなかったのだった――。




