いよいよ
「――よし、これでいよいよ、準備が整ってきたな……」
トッドは私室で一人頷きながら、久しぶりにできた休息の時間を楽しむために紅茶を飲んだ。
ぬるくなっていたので、そのまま一息に飲み干してしまう。
カップを音を立てずにソーサーに乗せてから、ふぅと一息つく。
機動鎧の開発と量産に、有能な人材の確保。そして機密情報や秘匿技術が漏れ出さぬような情報統制。
国内の情勢や兵士達の志気の確認、そして諸外国の動静の観察。
将来的に自分の領土となるエルネシア連峰を構成する山々の麓に作る開拓村の開発。
そして自分の私兵である山の民達の忠誠の確認や、彼らが離反しないようにするための武力による直接的な指導。
さらにそこに各地でイベントが起こるタイミングの確認や、自分が動いたことによるキャラの動きの変更の確認。
トッドしか知り得ない情報も多いため、あまり人任せにするわけにもいかない。
基本的にいつもやらなければならないことに追われていて、自分の時間などというものはほとんどない。
けれどとりあえずローズを味方に引き入れることができた時点で、彼としても一気に肩の荷が下りてくれた。
現在、機動鎧は増産が進行中だ。
このまま行けば本来なら未だ予備役にしか入れない年齢であるタケルやローズに機動鎧を与えるだけの余裕もできるだろう。
ヤマタノオロチが復活するまでに残された時間は、あと三ヶ月ほど。
その時間で可能な限り、準備を整えなくてはいけない。
トッドは立ち上がり、外へ出ることにした。
考えることに疲れた時には、自分の部屋を出て外気に晒されることも結構重要なのだ。
トッドが山の民の征服で結果を出してからというもの、皆は見ていて笑ってしまうほど簡単に手のひらを返した。
『さすがトッド殿下!』
『自分達は信じておりました!』
『自ら率先して戦う万夫不当のトッド様がいれば、リィンスガヤ王国は安泰ですな!』
トッドの活躍によって、面白いことが起きた。
貴族や王族が前に立つことへの忌避感が、前よりも明らかに薄れてきたのだ。
それは青い血の流れる貴族たるもの、魔法を駆使して戦場で活躍せよという今までの在り方とは違う。
今までよりもずっと近い距離で、前線で戦うのが格好が付くという風潮ができはじめている。
トッドにはその変化に覚えがあった。
――そう、機動鎧の開発による、騎士道の再来である。
(もちろん僕の力だけじゃなく、皆の協力あってのことだけれど……ようやくここまで来れた)
自分が知っている時代の流れがやってきたことに、そしてその潮流を自分が生み出せたことに、トッドはほくそ笑む。
現状、転生する前にしようと考えていた目的のうち達成できたのは約半分ほど。
本来エドワードがプレイヤーとして本格的に動けるようになる、ゲーム開始の前段階である今でこれだけ沢山のことができたのだから、全てを掬い上げることだって決して不可能ではないはずだ。
トッドが向かった先は、王宮にある離宮の一つ。
そこはタケルとその母であるミヤヒが住まう、トッドに懐かしさを感じさせる宮殿だ。
アキツシマとリィンスガヤの建築様式が混ざり合った混沌としたその場所は、和洋折衷の名の下に洋室と和室が両方ともあった実家を思い出させるのだ。
実家のような安心感を感じながら歩いているトッドに、剣を打ち付け合う甲高い音が聞こえてくる。
「元気があって大変よろしい……でも元気がありすぎるのも、考えものかな?」
トッドに見えてきた離宮の庭園で、二つの影が向かい合っていた。
「ええいっ、うるさいぞローズ!」
「何よ、文句でもあるの。っていうかあんた王族のくせに、本当に金玉ついてる?」
「きんっ――!? なんて汚い言葉を使うんだ! 君は本当に育ちが悪い!」
そこではシラヌイに身を包んだタケルと、シラヌイによく似た機体に乗り込んでいるローズの二人が、激しく剣を打ち合わせていた――。
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