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やらせてください!


 リィンスガヤに入ることに成功したローズは、トッドが思っていたよりも高い地位にいる人物であることを知る。

 というのも、リィンフェルトを抜けてからというもの、トッドが行く先で必ずと言っていいほどに頭を下げられていたからだ。

 そして時折名前の後ろにつく、殿下という呼称……。


 ローズは最初その意味がわからなかったが、カルラに聞くと飛び上がるほどに驚かれた。


「――殿下だって!?」

「ど、どうしてそんなに驚くの、お兄ちゃん」

「だってそれって……王族につけられる呼び名だぜ?」

「お……王族ぅっ!?」


 どうやら自分達はとんでもない人物にスカウトを受けたらしい。

 カルラはそれを聞いて、野心にメラメラと目を燃やしていた。


 ローズの方は、王族のような偉い人間があんな風に機動鎧に乗り込んで先陣を切っていいんだろうかと思い、本当に王族なのかどうにも信じられないでいる。


「でも、考えてみると変だよな」

「え、何が?」

「そもそも、トッド様はリィンスガヤで王族をしてるわけだ。それならなぜ、わざわざ危険を冒してまで直接リィンフェルトに乗り込んでくるんだ? 自分で出向かずとも、人を雇って行かせればいいだけだろ?」

「……たしかに」


 そう言われてみるとたしかにそうだ。

 自分達に目的地を教えてくれたり、当座の路銀をくれたりした人は雇われた人だったのは確認している。

 けれどトッドはわずかな供回りをつけている以外は、後はローズ達三人を除いてほとんど誰かを遣っているような気配はない。


「リィンフェルトの王族だったら、普通行幸の度に二十人三十人と護衛や付き添いをつけるのが当然だ。リィンスガヤはよくわからんことに精を出しているとあんまり評価はよくないって話だったが……実際のところ、どうなんだろうな?」


 カルラの捕捉に、ローズは以前知り合いのおばさんがしていた、リィンフェルトの王族の噂話を思い出す。

 どれもこれも下世話なものばかりで、碌でもないことばかりだった。


 ローズは見たことはないが、リィンフェルトの王族達の自国民からの評判は決して高くない。

 彼女が知っている王族というものと、トッドという存在は、あまりにも乖離していた。

 離れすぎているあまり、王族だ言われてもいまいちピンとこないほどに。


 だがとにかく偉い人なのは、周りの態度を見ればわかる。

 ……トッドが偉ぶらないせいでつい忘れがちになってしまうのだが。


「みんな、トッド様みたいになればいいのにね」


 庶民派というか、常識的な感性を持ち合わせていて。

 特に居丈高になったりするようなこともなく。

 民の目線から物を語れる人が、もっと増えるようになったらいいのに。


 そんな気持ちから出てきた言葉だったが、それを聞いた兄の方はにやりと笑う。

 もう成人してずいぶん立っているというのに、どこか子供っぽい笑みだった。


「おいおいローズ、最初はあんなに嫌がってたのに、最近じゃあずいぶんとトッド様の肩を持つじゃないか。我が妹にもようやく春が来たか……」

「――ちょっ、そういうのじゃないってば!」


 ぶんぶんと両手を振りながら否定するローズを見て、カルラはより笑みを深くする。

 ローズは兄にからかわれながらも、必死になってそれを否定する。

 けれど以前と比べればトッドに対する態度が変わっているというのもまた事実だった――。


 リィンスガヤを歩いていくことしばらく。

 リィンフェルトと比べるといくらか都会的な街並みを進んでいく。


 道中もトッドが頭を下げるような機会は、身分を隠して何かをする場合を除いて一度もなかった。

 そのせいで面倒ごとに巻き込まれたりすることもあったが……ローズもカルラも、なんやかんやでトッドのお人好し気質に引っ張り回されるうちに慣れてしまった。


 そう、危険な場所へ行く場合にも、ローズとカルラはなぜか同行を許可された。

 トッドやその部下達が使う謎の兵器や兵装達は圧倒的で、ローズ達に危険がふりかかることは一度としてなかった。


(いったいあれは、なんなんだろう。私達でも見れるってことは、そこまですごい軍事機密とかじゃないんだろうけど……)


 ローズの興味は日増しに強くなっていった。

 けれどどんなものか教えてほしいと尋ねてみても、トッドの方も「強い武器だよ、どんなものかは秘密だけどね」とにべもない。

 結果としてローズの方も、気が付けばトッド達が戦う姿をジッと見つめていた。


 そして道中で山賊を討伐したり、街を困らせているワイバーン退治を完遂させたところで、ようやくリィンスガヤの王都までやってくることができた。


 そこでローズとカルラは呼び出されたのだ――自分とは縁もゆかりもないと思っていた王宮へ。


 ここに来て、二人の疑念はようやく確信に至った。

 あんだけ好き放題やっていたトッドは、本当に王様だったのだ……と。


 そして彼らは、増改築が繰り返され、以前と比べるとずっと立派になった土蔵の中へと案内される。

 そこで彼らは、トッドから依頼内容の変更をお願いされた。


「実は君達には、モデルケースになってもらいたくてね。あの僕達が使っていた兵器を使って……?」


「やります――やらせてくださいっ!」


 ローズはトッドが言い終えるよりも早く、食い気味に答えていた。


 あの力を、自分も使えるようになりたい。

 そしてトッドのように、強くなりたい。


 そう思って目を輝かせているローズを見て、トッドはわずかに苦笑しながらうんと頷いたのだった――。

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