世界
そこはローズが暮らしてきた世界とは、根本とは違う何かだった。
全てが色鮮やかで、ピカピカと輝いていて……そして喜びに包まれている。
「わあっ、何あれ!」
「すごい、甘くて美味しい!」
「こんなに切れ味の良い武器があるの!?」
ローズが歩いて辿り着く先々で、彼女は色々な物に触れた。
見たことのない景色、食べたことのない甘味、使ってみたいと思えるような鋭い刃物。
色々な物を物色してはあれは何、これは何とカルラに尋ね、カルラは苦笑いしながらそれに答える。
マイヤは後ろから二人の様子を見守っていた。
彼女達の様子は傍から見れば、完全におしゃまな妹とそれに振り回される兄、そしてそれを優しく見つめる母親だった。
(まあ、そんな単純な関係じゃないけれど)
ローズは後ろにいて、妙に慣れた様子のマイヤを見てから、ふんっとそっぽを向く。
マイヤは以前はこちら側で暮らしていたからだろう、ローズほど感慨を受けている様子はない。
ローズは思った。
これが掃き溜めのようなスラムとは違う、この世界本来の姿なのだと。
彼女は道行く人々の表情を見る。
無論、悲劇が転がっていないわけではなさそうだ。
ところどころに物乞いがおり、小規模ながらスラムのようなものも存在していた。
けれど大勢の人が、明るい顔をしている。
そして世界そのものが殺伐としていない。
生き馬の目を抜くような、目が血走った人がいないのだ。
ローズはスラムに暮らしている間、言われていた範囲から外に出ることはなかった。
そんなことをすればどんな目に遭うことになるかを、兄から耳にたこができるほどに聞かされていたからだ。
だから彼女にとって、世界とは窮屈なものだった。
そして自分を縛る鎖がなくなったその瞬間、世界は彼女を祝福してくれた。
一度世界の裏側で暮らしてきた経験のあるローズだからこそ、こう思った。
(私はこっちの世界で、光の差す、表の世界で生きていきたい)
ローズは強く、そう思った。
そのためならば、どんなことでもやろうと思えた。
たとえ――自らの身体を売るようなことになったとしても。
一度光を知ったからこそ、闇のわだかまるあの場所には、二度とは戻りたくなかったからだ。
ローズは感情が表に出やすいタイプだった。
道中スラムを見る度に彼女が浮かべていた表情を見て、カルラも色々と察したのだろう。
「もしこの仕事が上手くいくことになれば、俺もローズも母さんも、もう食いっぱぐれることはなくなる。さっきの甘い氷菓だって、たまに食べられるようになるはずさ」
「ホントッ!?」
「ああ、お兄ちゃんは嘘はつかない」
その言葉を信じ、ローズはるんるん気分で旅を続ける。
時に窓から半身を飛び出させながらハミングをしたり、幌の上で寝転んで眠ったりすることしばし。
リィンフェルト最北の街ラーヒムへと辿り着いた時に、ローズはなんとなく兄の目的を察した。
恐らく自分の兄はリィンフェルトを抜け出し、リィンスガヤへと向かうつもりなのだろう……と。
そしてその予想を裏付けるように、ラーヒムでローズはとある人物と出会った。
そこにいたのは……。
「どうも、初めまして。僕の名前はトッド。君達にとある仕事を頼みたくてねその成功の暁には――君達家族の面倒をリィンスガヤが見ることを誓うよ」
未だ成人しているようには見えない、カルラよりも幼い一人の少年だった――。
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