外の世界へ
ローズ・カルラ、そして母であるマイヤは、珍しく三人でスラムを歩いていた。
「おっす、おはざっす!」
「おう、おはよう」
「親孝行っすか!」
「そんな感じだ」
道行く人達が、カルラだと気付くと声をかけてくる。
カルラはそれらの声に対し、ぞんざいな態度で答えを返していた。
――カルラはスラムで、小さい子供達から青年くらいまでの年齢の者達の、まとめ役のようなものをやっている。
不足している物も多く、人材も足りない……そんなないない尽くしのスラムでは奪う・奪われることが日常茶飯事であった。
法の埒外であるスラムにおいて、無法をある程度のために抑えるためには秩序が必要だ。
自分はそのために活動をしている。
ローズは出掛ける前にそんな風に語ったカルラを見て、目をキラキラと輝かせていた。
(私も、お兄ちゃんみたいになりたい!)
まるでボスの風格を漂わせるカルラに、ローズはもうメロメロだった。
今まで自分が見たことのない兄の雄姿を見るその姿は、まるで英雄譚を聞き終えた少年のようだった。
「なんだかすごいのねぇ」
(……相変わらずこの人は)
マイヤの方は首をコテンと傾げながら、あらあらと頬に手を当てている。
もうそういう仕草が似合う歳でもないでしょうに、とローズの態度は冷ややか。
普通は女がスラムをのこのこと歩いていれば、いいカモにされる。
少し薹が立っているマイヤと幼すぎるローズであれば性欲の対象ではないかもしれないが、世の中には好事家も信じられないほど邪悪な者達もいるものだ。
ローズは実際、そのような粘つく視線をいくつか感じていた。
けれどそんな者達も、二人に声をかけることはない。
それだけカルラの威光がすごい、ということなのだろう。
家の中で引きこもっていて編み物をしているマイヤとは違い、ローズは頻繁に外に出てちゃんばらごっこに興じることも多かった。
けれど彼女の行動範囲は、あくまで兄にいいと言われたところまで。
新たに出ることになった世界は、同じスラムではあれどまったくの別世界だった。
カルラの姿を見て逃げ出す者もいれば、つまらなそうな顔をする者や、元気に挨拶する者もいる。
そこには自分の知らない人間関係があり、自分が知りもしなかった世界が拡がっていた。
世界の広さを改めて感じながら、ローズはカルラに必死についていくのだった――。
「ほう、たしかに面影があるな」
カルラに先導されてついていった先には、一軒の家があった。
お貴族様でも住んでいるのかというくらいに豪勢な屋敷だった。
不思議なことにある程度手入れもなされており、メンテナンスがされていないボロ屋、という風には見えない。
恐らく中に住んでいる人物は、スラムの中でしっかりとした地位を築いているのだろう。
顔中傷だらけの元マフィア、みたいな人物を想像していたが、中にいた人物は至って普通だった。
中肉中背の男だ。顔にも特に目立った特徴もないので、街中で歩いていても周囲に溶け込んでしまうことだろう。
部屋の中だというのになぜかぶかぶかの外套を羽織っている。
何か見せたくない古傷でもあるのかもしれない。
「連れてきましたが、このまま出るんですか?」
「ああ、ゲッペルを抜けて更に北へ出る。スラム出身だとバレないようにしっかりと身なりを整えてから行くように」
それだけ言うと男はすぐに出て行ってしまった。去り際にカルラの手に袋を握らせて。
三人はそのスラムにしてはずいぶんと立派な家を出る前に中身を確認した。
そこに入っていたのは――みっちりと詰まった金貨と銀貨だった。
「なっ――むぐぐっ!?」
「しっ、声が大きい!」
ローズはカルラに口を塞がれながら、硬貨の輝きに目を眩ませていた。
彼女が見たことがあるのは、たまにおこづかいにもらえる銅貨くらいなもの。
これほどの大金を見るのは生まれて初めてだ。
こんなものをポンと渡されるような仕事と考えるとなると、いったいどんなことをさせられるのか。
私の貧相な頭じゃ想像もつかない、と思考を放棄する。
「とりあえずスラムを出る。もしかしたら戻ってくることはないかもしれないが……別れの挨拶はナシの方向で頼む」
「うん、わかった」
別にスラムに良い思い出があるわけでもない。
スラムの外に出たことはないが、あんな掃き溜めみたいなところよりかは幾分かマシなはず。
そんな風に思ってカルラに言われるがままスラムを出たローズは、自分の予想が間違っていないことを知った。
彼女はスラムを抜けた先にある外の世界は、今まで生きてきた世界よりずっと色鮮やかで、素晴らしいものだということを、何かをするにつけ知ることになるのだった――。
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