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ソエル


 ソエル・フォン・グランツという人物は、『アウグストゥス』の世界では不遇な運命を辿ることの多い女性だ。


 魔導師としての才能は並程度であり、宮廷魔導師達の中では下から数えた方が……というより底を浚えばすぐにソエルの名が出てくるような人物だった。


 そんな状態では扱いも悪く、当然ながら目立った仕事を任されることもない。

 彼女の宮廷魔導師達の間で、愚図やのろまを意味するクンクタトールというあだ名で呼ばれることになる。


 山の民の襲撃等の戦闘イベントが起こった場合、王太子であるトッドのお目付役として派遣される。

 もちろんそれは、トッドの勘気を被りたくない他の宮廷魔導師達が謀をした結果の人事だった。

 そうなった場合、ソエルが辿ることになる末路はほとんどの場合悲惨なものだ。


 トッドを逃がすために死ぬか、錯乱したトッドに殺されるか、トッドごと敵にやられてしまうかというささいな違いはあるにせよ、ほぼ全ての分岐で彼女は死んでしまうことになる。

 そしてプレイヤーはああ、のろまが死んだかとその情報を頭の隅に追いやり……そして後になってから後悔することになるのだ。


 ――ソエル・フォン・グランツこそがこの作中世界で最強の、土魔導師だと知った時には、既に全ては後の祭りなのだから。




「わ、私が、筆頭宮廷魔導師に……?」


 こてん、と首を傾げているのはショートカットをした女性だった。

 それがあざとく見えず、至って自然に見えるほどに容姿は幼い。

 まったくもって、年齢は既に二十代の半ばを過ぎているようには見えない。


 目にかかるかかからないかというほどの前髪の隙間から見える瞳は琥珀色で、そのせいで猫のような印象を与える。

 身長も小さく、こうして事情説明にやってきたトッドとさほど変わらないほど。

 同じくやってきていたスラインは大分腰が曲がっているが、彼よりも小さいのだから、女性の中でも小柄に分類されるだろう。


 彼女――宮廷魔導師ソエルはまず言われた言葉をそのまま文字列で受け止め。


 むむ……と唸りながら、その言葉の意味を反芻し、自分の中で消化して。


「ふえ……ふえぇぇぇぇぇっっ!?」


 そしてようやっと意味を理解して、特大の間抜け声をあげた。


「ど、どうして私なんですかあっ!?」


 悲鳴にも聞こえる声を受け止めるのは、彼女に筆頭宮廷魔導師を継いでくれるよう頼みに来たスラインだ。

 今回トッドは、立会人のような立場を取っている。


「時代が変わったからだ。今後必要とされるのは私のような何十という敵を倒せる魔法使いではなく、何十という武装を生み出せる魔法使いになっていくのだよ」


 スラインは滔々と語る。

 今は魔法の黎明期であり、新たな局面を迎えようとしているのだということを。


「恐らく今後は、魔法使いが戦場の花形となる時代は終わるのだろう。悲しいが、また戦場で輝くのが騎士になる時代がやってくるのだ。だがこれは退化ではないぞ、むしろ進化のための必要な犠牲と見るべきだろう」


 今後魔法使いは魔法兵ではなく、兵器を作り出す後方部隊へと切り替わっていくことだろう。

 回復を行うために兵科としては残るだろうが、今後その役割は縮小していくのは間違いないとスラインは続ける。


 彼の真面目な言葉に、先ほどまで醜態を見せていたはずのソエルは真剣な顔つきへと変わっていた。


 何故なら彼女こそが、その時代の変化の潮流を一番に浴びている魔導師に違いないからだ。

 ――前世での知識があるからこそ、トッドはソエルを積極的に兵器開発に携わらせていた。

 それどころか冷や飯ぐらいなどと揶揄される土魔導師達を使うことで、効率的な兵器開発に成功していたのだ。


 土魔導師の立場は変わった。

 戦争らしい戦争がなくなった今、リィンスガヤ王国での主役は使い道のない魔法を練習する火魔導師ではなく、今後のために兵器を生産できる土魔導師へと移りつつある。


 無論既得権益層から根強い反発は想定されているが、実績と今後の実際的な軍備力増強により彼らは物理的に黙らせることが可能なため、さほど心配する必要はない。


「新時代を生きるのは、この老骨ではなくソエル……お前のような次代の魔導師だ。故に私は今この瞬間を以て、次代の筆頭宮廷魔導師にソエルを推挙することをここに宣言する」


 そう言うとスラインが手に持っている杖を掲げる。

 国王から拝命時に頂戴したその純金の杖は、リィンスガヤ王国全土の魔導師の中で最高峰であることを示す輝きに満ちている。


 ソエルは何も言わず、黙って頭を下げた。

 そしてスラインはソエルの頭を、軽く杖で叩く。


 騎士が己の剣を王へと捧げるのと同様、魔導師は己の杖を王から賜る。

 王から貸し与えられたこの杖を他の者にみだりに触らせることはない。

 触れさせる者が出てきた場合――当代の筆頭宮廷魔導師が、次代の後継者を見つけた時に限られる。


「謹んで、拝命致します」

「馬鹿者! 私は推挙する旨を宣言したのみ! 正式に任命されるのは陛下である!」

「あいたあっ!?」


 今度は杖ではなく素手でソエルの頭を叩く。

 先ほどの軽い小突きではなく、本気のグーパンであった。


 いたた……と頭にできたたんこぶをさするソエル。

 彼女を見て不安そうな顔をしているスライン。


 たしかに一人一人を見れば、頼りないかもしれない。

 けれど少し離れた場所から二人を見ているトッドは、こう思った。


 二人を一度に視界に収めれば、なるほど見事な構図が出来上がる。

 ソエル一人ならばたしかにまだ心配は残るかもしれないが、それをスラインが見てやっているうちは、きっと大丈夫だ……と。


 こうして次代の筆頭宮廷魔導師は無事ソエルに決まる。

 候補者達による地位の争奪戦は起こりかけもしたが、スラインが黙らせたことによって問題は起きなかった。


 そして今代の新たな筆頭宮廷魔導師は、無事ソエル・フォン・グランツに決まったのだった――。


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