神
大森林において、ここ数十年の期間になって急激に繁殖しだした魔物――それがアビスである。
その見た目を、一概にくくることはできない。
何故ならアビス達は、あらゆる魔物の形と特徴を持つ、不可思議な存在だからである。
ゴブリン、オーク、リザードマンにケイブボアー……人型・非人型を問わず、アビスはその形を取る魔物の特徴を持って生まれてくる。
それがいったい何なのか、なぜ、どこから生まれてどのように繁殖を行うのか。
それを知る人物はいない。
――『アウグストゥス ~至尊の玉座~』の知識を持つトッドを除いて。
「ではそのアビスという魔物を討伐することが、エルフ達との協力関係を築くための条件になった、という認識で相違ないですな?」
「うん、アビスの場合根絶はできないから、その分対症療法的に倒す必要が出てくる。なのでとりあえずはそうするって感じかな」
「それなら今後はどうするつもりだ?」
「今回アビスを討伐して手を取り合うことがまず最初の目標。それが達成できたら、後に亜人達にアビスを被害なく倒せることができるように、彼らの魔法と鍛冶技能の対価として、強化兵装を提供するつもりだよ」
トッド達はアビス討伐にあたり、まずは中でも実力者でエルフ達のエリート部隊と顔合わせを行うことになった。
彼らに先導してもらい、一度実力者であるトッド・ライエンバッハ・トティラの三人が威力偵察を行う。
アビス達を問題なく倒せることが確認できたら、ランドル達や亜人達の戦闘部隊を引き連れて、大規模なアビス討伐を遂行するという作戦だ。
現在のトッド達は、言われた集合場所へ、歩きながら向かっている最中である。
「ですが、あらゆる魔物の特徴を持つ魔物とは……そんなものが存在してもいいものなのでしょうか」
「たしかにちょっとチート……ううん、あり得ない性能をしているよね」
「シラヌイを持つお前がそれを言うのか?」
「うん、だってアビス達は、今後更に強くなっていくからね。最終的には、シラヌイじゃあ相手ができないくらいに強化されるはずだよ」
「強化……ですか?」
ライエンバッハはトッドの言い方が気にかかったのか、不思議そうな顔をしている。
まるでアビスがどういった存在なのかを知っているようなその口ぶりに、トティラの方も興味深げな表情を浮かべる。
トッドは彼らの方へは振り返らず、前を向いたまま続けた。
「アビスとは……平たく言えば、この世界が持つ自浄作用そのものだ。それは強力な魔物が出没するか、強力な兵器が開発されれば、その分だけ戦闘能力を増していく」
「では、リィンスガヤの兵器開発は……」
「いや、そうなるのはまだまだ先の話だから。今は一刻も早く機動鎧を作らないと、世界が持つシステムと戦えなくなる」
「世界が持つ……」
「システム……?」
二人とも不思議そうな顔をしていたが、トッドはそれ以上説明を続けることはなかった。
あまり多くを語りすぎれば、二人の口を通じてどこにどのような話が伝わるかわからない。
トッドは世界の真実を、全て語るわけにはいかないのだ。
いったい誰が信じられるだろうか。
この世界が――たった一体の創造神の、盤上の遊戯に過ぎないなどという事実を。
アビスとはなんなのか。
簡潔に言ってしまえばそれは――この世界を生み出した創造神ディアニーヌが盤上の駒を動かすために用いる、妨害装置のようなものだ。
アビスはある時は虐げられた種族を絶滅にまで追い込み、またある時は強くなりすぎた種族の文明を破壊する。
その目的はいつだって神様のご機嫌次第で変えられてしまう。
大森林にアビス達がいるのは、亜人達を窮地に追い込むことで、彼らに覚醒を促すためだ。 それで絶滅すればそれまでという非常にドライな考えの元で、アビス達は日々亜人達に襲いかかるようプログラムされているのだろう。
この世界には神が実在している。
実際に神託という形で現世に干渉できるのが、三柱の神。
その上に存在しており、彼らを動かしてこの世界を自分がしたいように動かしているのが創造神ディアニーヌだ。
ディアニーヌは気まぐれだが、どれか一つの種族が一人勝ちすることや、形勢が固まってしまうことをひどく嫌う。
そのためトッド達があまり強くなりすぎれば、間違いなくアビスによる干渉を招くことになる。
トッドは今後アビス達、つまりは神の意志と戦うために、急ぎ人間達の力を結集する必要があると考えていた。
彼は己の死亡フラグを回避できたことで、世界そのものにまで目を向けるだけの余裕ができるようになった。
これはまだ誰にも言ってはいないが、彼は最終的にはリィンフェルトもアキツシマも、まとめて味方へと引き込み、この世界のシステムであるアビスを相手に大げんかをやらかそうという計画を立てていたりする。
そのために邪魔立てするどんな障害も、破壊してやる算段だった。
ゲームにおいて神が率いる戦力は、天上世界や地獄世界の天使と悪魔達。
神は決して無敵ではない。
最強格の機動士さえ揃えれば、ラスボスである創造神相手に痛打を与えることさえ可能だった。
この世界には神が実在する。
そして実在するからこそ、対処法が存在するのだ。
とはいえ神が人間世界に目を向けるのは、まだまだ先のこと。
トッドはとにかく自分にできることをしようと、ライエンバッハ達を率い待ち合わせ場所へと向かうのだった――。
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