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この手で


「ううん、森の中を歩くのってしんどいねぇ……」

「それほどですか、体力的に問題はないと……」

「いや……ここすごいジメジメしてるからさ。これ、このまま使い続けてたら中にカビ生えちゃいそうだよ」


 ライエンバッハはなるほどと頷きながら、目の前に垂れていた枝をスパッと切り落とす。

 彼は今回は視界確保と柔軟な行動のために、魔道甲冑ではなく強化兵装を着込んでいた。

 その後に、シラヌイを着込んだトッドが続いて歩いていた。

 昨日に雨でも降ったからか、地面はぬかるんでおり、とにかくジメジメしている。


 その後ろに続くのは、山の民達とランドン達出張親衛隊組だ。


「面白いな、これほどまでに森の恵み豊かだからこそ、他種族と関わりを持ち交易をせずとも、生活を充足させることができているということか」


 その山の民達の中には、トティラの姿もあった。

 彼には魔法の素養があるため、魔導師用の強化兵装を着込んでいる。

 さらにそのまた後ろにいる者達も、今回は全員に強化兵装を貸し出している。


 彼らが進んでいるのは――とにかく鬱蒼と、うっとうしくなるくらいに大量に草木が生い茂っている森の中だった。


 人間側からの一切の侵入を絶ち、エルフやドワーフ達の亜人種達にとって天然の要塞となっているその森の名は――大森林。


 今回もトッドは、わずかな供回りだけを連れ、エルフやドワーフ達をヘッドハンティングするために、極秘任務に勤しんでいるのだった――。





 そもそもエルフやドワーフを始めとする亜人とは、いったいどのような者達か。

 簡単に言えばエルフは人間よりもずっと上手く魔法が使える者達で、ドワーフ達は人間よりも冶金技術の高い者達である。

 どちらも人間と比べるとはるかに長命で、その寿命は人間と比べてエルフは約三倍、ドワーフは約二倍という開きがある。


 機動鎧の作成及び量産のためには、腕のいい魔法使いと、能力の高い技術者はいればいるだけいい。

 彼らの力は、リィンスガヤ王国をより強国にしていくためには、必要不可欠だった。


 現状でもリィンスガヤ王国の第一王子であり、そして将来的に高い地位が約束されているトッドがまたも直接スカウトに出向くその理由も、山の民達の征服に行った時と同じだ。


 エルフとドワーフもまた、市井にその存在をあまり知られているわけではない。

 彼らのことを最もよく知り、かつ有力な人物についてはある程度の能力値が頭に入っているトッドが行かなければ、どんなことになるか、想像がつかなかったからである。


 そもそもの地理を説明すると、リィンスガヤ王国はその東にエルネシア連峰、西に大森林、そして南にリィンフェルト王国、北に海を隔てて海洋国家アキツシマと接している。


 それほどまでに近い距離にありながら、リィンスガヤ・リィンフェルトの両国は大森林にいるエルフ・ドワーフ達と没交渉にある。


 その理由は以前手痛い失敗を受けたことが根底にある。


 はるか以前、今よりもずっと迷信の深かった時代。

 どれほど歳を重ねても二十代後半からは見た目の衰えがないエルフは、不死の象徴とされた。

 エルフ達と性交渉を行えば、人は若さを保つことができる。


 そんな噂がまことしやかに囁かれ、当時未だ一つの国であったリィン王国はエルフ狩りを秘密裏に行うようになった。


 結果として王国からはエルフの姿が消え、次なる狙いは大森林。

 軍隊を派兵して、エルフ達を根こそぎにしようとしたリィン王国は……大敗することになる。


 そもそも大森林はその地形上、大軍で行動することに向いていない。

 泥濘に足を取られ、木々に視界を邪魔されるこの場所では、十人で形成される小隊以上の規模の軍勢が行軍するのにあまりに不向きだった。


 地理にも明るいエルフ達はゲリラ戦を敢行し続けて士気を挫いたことにより、リィン王国の兵士達は一人また一人と逃げだし、リィン王国は成果を得ることなく遠征を終えた。


 その際、鏃や弓を始めとする武器の製造、修理を行ったのがドワーフ達であった。


 そのため以前はいがみ合っていたエルフとドワーフ達はそこで和解することとなり、長い時間をかけたことで、今では種族的な差別や偏見もなく大森林で共に暮らしている。


 それ以降、彼ら亜人達と人間は交渉することはなく。

 リィン王国は跡継ぎ争いのせいでリィンスガヤ王国とリィンフェルト王国へと分離し、その長い間もごく個人的なやり取りを除けば、人と亜人が関わることはなかった。


 しかしトッドは、この現状がもはや長くは続かないことを知っている。


 ゲーム内において、エルフとドワーフ達の立場は、どの時期から人間による国家に手を貸したかによって大きく変わってくる。


 初期の段階からからリィンスガヤ・リィンフェルト・アキツシマと交友を持つことができれば、強化兵装・機動鎧の作成に非常に役立つ彼らは技術者として珍重されることとなり、所属する国家で相応の地位を持つことになる。


 それが中期になり、既にある程度機動鎧の量産化が進んだ段階になると、彼らの技術者としての必要性が減るため、その立場も悪くなっていく。


 終盤になるまで森を出ない頑迷な選択肢を待っていた場合、彼らに残されるのは奴隷になる道のみだ。


 機動鎧であれば、実質的に小隊規模であっても大森林のエルフ・ドワーフ混成軍を中隊、優秀な機動士さえいれば大隊を粉砕することができる。


 エルフの矢では機動鎧の装甲を抜くことができず、ドワーフの近接戦闘能力では機動鎧の高速戦闘にはついてこれない。


 彼らが時代遅れの遺物となるのか、はたまた機動鎧開発の立役者となるのか。

 この世界でそれを決定づけることができるのは……トッドだけなのだ。


 トッド達は迷いながらも先へ進み、エルフ達の哨戒網へ接することに成功した。


 ――さあ、救おうではないか。

 共に手を取れるエルフとドワーフ達を、この手で。


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