謁見
トッドが帰ってきてからのリィンスガヤ王宮は、上を下への大騒ぎになった。
よくわからない新兵器の実験をしていたはずが、気付いたら長年目の上のたんこぶだった山の民の征伐が終わり彼らを配下へと加えていたのだから……。
「――以上で報告は全てです、父上」
「う、うむ、なるほどな……」
トッドは帰還したその日のうちに、公式な場で父である国王と話をするように命じられた。
彼はまずは多数いる武官や文官、貴族達の前で国王へ今回の全体の流れをざっくりと上奏した。
そしてその後にライエンバッハを伴い、私的に訪問し、子細の説明を終えたところだった。
国王であるトッドの父、リィンガルディア四世はトッドの報告を聞き……頭を抱えてしまっていた。
トッドが錬金王子などとバカにされ、既にエドワードへと乗り換えたものが多数いる現状。
トッドが跡目を継ぐ可能性はほとんどないとされていたし、国王の方もそれでいいと思っていたのだ。
(まさか状況がこうも変わってしまうとは……内乱にならなければ良いのだが)
国王が不安になるのも、無理のないことではある。
以前は目をかけていたが、トッドの最近の不可解な行動はあまりにも目に余っていた。
正妻と共にトッドを神童だと喜んでいたのも今は昔の話。
トッドが徐々に王族としての正道から外れていき、エドワードの聡明さが次第に明らかになっていった段階で、王はトッドに見切りをつけていた。
そのため後進のためにと副団長に親衛隊を任せているライエンバッハをつけたり、彼がしているよくわからない魔物の研究のためにある程度金子を渡したりして、もう好きにやらせていた。
本人も王位を継ぐ気はなく、
「エドワードが王になるべきです」
と繰り返していたのだから王としても未練はなかったし、リィンスガヤ王国の貴族達にも好き勝手政治工作をやらせていたのだ。
けれどこうして、山の民の征伐という成果を、あり得ないほどの少数で成し遂げたとなれば、その武功は計り知れない。
おまけにトッドが成したのは征伐だけではなく……。
「そして父上、今回の山の民の征伐で証明はできたはずです。私とその部下達が共同で開発した魔道甲冑や強化兵装、そして強化重装について」
「うむ、そこに関しては今すぐにでも作業に取りかかる必要があるだろう。急ぎスラインを頭にして、作業へ当たらせる」
彼が作っていた物、ガラクタだの魔物の死骸だのとバカにされていたものが、いったいどれだけの力を発揮することのできる兵器なのか。
山の民の征伐は、正しくその実戦証明となった。
トッドが連れて行った面子は彼とライエンバッハ、そして親衛隊の兵士三人と研究員が二人だけ。
たったそれだけだ。
合わせて七人の人員だけで、エルネシア連峰を征服し、そのまま山の民まで傘下に入れることができてしまう。
無論、現地の山の民の協力があったのも間違いないだろう。
だがそれを差し引いたとしても、トッドが作っていたその各種兵器群はあまりにも……強すぎる。
今後の戦いそのものを左右しかねない。
あるいは今後の……世界そのものさえ。
「とすると問題になってくるのは……」
「山の民の持つ気質の部分でしょうか?」
「……その通りだ」
トッドが持ち込んできた厄介な問題は、王位継承問題や、兵器開発に関する問題だけではない。
どちらかと言えばこの三つ目の方が、今後大きな事態へと発展しかねない。
それが山の民の気質――つまりは自分を下した人間にしか服属しないという、狩猟民族特有の弱肉強食の倫理観である。
「彼らを父上に会わせるわけにはいきません」
トッドは山の民の人間を数人連れてきていたが、一度会いたいという国王に対しこう述べた。
「彼らがもし父上に会えば、間違いなく不敬罪で斬首にされるでしょう」
山の民は強さを何よりも愛する。
彼らの考え方からすると、血統や権威によって王の立場にいるリィンガルディア四世に対しこびへつらう理由がない。
だから国王と会っても、対等な言葉遣いをするだろうと。
彼らはトッドに付き従い、そしてトッドの命令にしか従わない。
山の民は、リィンスガヤという国からすると極めて扱いづらい存在なのである。
リィンスガヤ王国の版図に加えていいのかも微妙なラインだろう。
山の民は今や、トッドが抱える、彼の命令にしか従わない武装集団になってしまった。
これを機に国内でどのような蠢動が起こるかと思うと、リィンガルディア四世は冷や汗をかかずにはいられない。
「トッド、お前はどうするつもりだ?」
「どうする……とは?」
「これほどのことをやってのけたのだ。今やお前が王位継承レースに乗り出そうが誰も文句はつけないだろう」
「まさか! 僕は王になるつもりなんてさらさらありませんよ。王になるのは、エドワードであるべきです」
トッドはとりあえずこれを機に王族から除籍にしてもらい、エルネシア連峰一帯を預かる辺境伯になりたいという、自分の考えを述べる。
それを聞いて一安心したのは国王だ。
トッドが弟妹達をかわいがっているのは知っている。
今回の一件のせいでそこに亀裂が入り、王国内でゴタゴタが起きるのは避けたかったからだ。
こうしてトッドは未だ内諾ではあるが、将来的に辺境伯へ就任する旨を国王に納得させた。
そしてトッドは急ぎ、機動鎧の開発のために必要な人材のスカウトへ奔走することとなる。
現在国内にある武装勢力として腫れ物扱いされることは、なんら問題ではない。
機動鎧の開発さえ済めば、生産力の差によって、山の民達の武力は大した問題ではなくなるからだ。
トッドは父との私的な謁見を終え、そのままエドワード達との会食へ向かう。
やるべきことは未だ多い。
けれど弟妹達との団らんもまた、それに負けず劣らず、トッドにとっては重要なのだ――。
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