【これで何度目だ!?】
次の日は、ちゃんと朝からスクールへ行った。驚くほど、何もない一日を過ごし、放課後を迎え、まずはオクト城に。フィオナにちょっとした差し入れを渡し、三十分ほど雑談を続けた。これで、ヘリでスクールにやってくることが減ればいいのだが……。
次は病院に。ハナちゃんは上機嫌で、怪我が治ったら一緒に練習する約束をした。あと、事件があったら僕より活躍すると意気込んでいたが、また怪我することがなければいいのだけれど……。
「はぁ、今日は平和だったなぁ」
面会時間が終わって、すぐに帰ればよかったのだけれど、何となく病院の屋上で一息吐いた。オクトの街を見下ろすと、月曜と火曜にあった事件をつい思い出す。セレーナ様、何をしているのだろう。今日、帰ったら彼女の配信でもチェックしようかな……。いやいや、そんなのストーカーみたいだし。
そんなことを考えながらベンチに腰を下ろすと、女性が一人、隣に座っていることに気付いた。彼女も戦争帰りなのだろうか。頭に巻かれた包帯が痛々しい。
「……わ、しの……ぺきな、かいが」
どうやら彼女は僕の存在に気付いていないらしく、小声で何か呟いていたので、自然と耳を傾けてしまった。
「私の完璧な世界が……」
どういう意味だろう。ただ、深い影が刻まれたその表情から想像するに、彼女も戦争で大きなものを失ってしまったのかもしれない。
「向井さーん。お部屋に戻りますよ」
看護師さんが女性を連れて、屋上から去った。やっぱり、戦争は悲劇しか生まない。僕は勇者として、大きな争いが生まれないよう、戦うことができたら……。そんな風に黄昏ていると――。
「やっぱり、ここなら会えると思いました」
ベンチに座る僕の顔を覗き込む人物。思わず顔を浮かべたが、彼女の姿を見て、自然と頬が綻んでしまった。
「セレーナ様!」
「こんにちは、神崎くん」
セレーナ様が、あの女性がさっきまで座っていた場所に腰を下ろす。
「ど、ど、どうしてこんな場所に??」
何をはしゃいでいるのだ。沸き起こる感情をコントロールしながら問うと、彼女は微笑んだ。
「お勧めの作品を伝えに来たのですよ」
取り出したのは、全巻セットと思われる円盤のボックスだ。
「No.19の遺影。小説原作のどろどろのファンタジー風の愛憎劇ですが、内容が濃く、コアなファンが多いアニメです。特に主人公のエルダーが愛する人のためなら手段を選ばないところが圧巻で、彼女のドールが販売されたときは、多くのファンが手に入れられず、私も骨を折ったものです」
「あ、ありがとうございます。一気見しますね」
「はい。最終回はティッシュを箱で準備してから見てください。最後まで見たら特典の設定集にある、各キャラクターの名前の由来も読んでくださいね。泣けるので」
「分かりました」
僕が円盤のボックスを受け取ると、セレーナ様は再び嬉しそうな笑顔を見せてくれるのだった。
「本当はスクールに押しかけようと思ったのですが、また怒られるのは嫌なので、ここで張っていました。綿谷華の病室で待ち構えることも考えたのですが……」
再会の場所がここで良かった……。
「でも酷いですよ、神崎くん」
「えっ、何がですか??」
聖女様に何か失礼があっただろうか。彼女はしょんぼりしながら言う。
「アニメや漫画の話はいつでも付き合うって言ったのに、連絡先を教えてくれなかったじゃないですか」
えええ!? そこ、気にしてくれていたんですか!?
「実は、僕も気にしていたんです。でも、僕の方から連絡先を聞くのも……失礼かな、って。セレーナ様から聞いてくれればよかったのに」
「お、乙女の方から殿方の連絡先を聞くなんて……女神セレッソに叱られてしまいます!」
お、怒るかな。
まぁ、あいつのことは、どうでも良いか。とにかく、早々に連絡先を交換してしまおう。
「これが僕の連絡先です。いつでも気軽にメッセージでも送ってくださいね」
「ありがとうございます!」
セレーナ様は僕の連絡先を受信したスマホを、世界で一番大事なものを手にしたように、胸のあたりで抱き締める。っていうか、セレーナ様……めっちゃ巨にゅ……
いやいや、僕なんかの連絡先で、こんなに嬉しそうにしてくれるなんて、何だか恥ずかしいなぁ。
「あと、実はしばらくアミレーンで生活することになりました。何かとお世話になるかもしれませんが、よろしくお願いしますね」
セレーナ様は僕に右手を差し出す。握手、ってことか。
「そ、そうなんですか。よろしくお願いします」
彼女の手を握りながら、僕は嬉しい気持ちが表情に出ないよう、耐えなければならなかった。ここで鼻を伸ばしてしまったら、嫌われちゃうかもしれないし、自然な感じを装うが、なぜかセレーナ様に睨まれてしまう。
「でも、私にここまでさせたこと、簡単には許しませんからね」
「えっ、何のことですか??」
「だから、私の方から連絡先を聞かせたことです。普通は男性の方から聞くものですよ?」
「本当にすみません。許してくれるなら、何でもしますから」
セレーナ様はどこか悪戯な笑みを浮かべながら、僕に一歩詰め寄る。
「何でもですか?」
まるで、その言葉を引き出そうとしていたかのように、セレーナ様の笑みが広がる。
「では、私のお願いを一つだけ聞いてください。そしたら、許します。いいですね?」
「な、なんでしょか聖女様」
……ん? このパターン、何回目だ??
二度あることは三度ある。三度あることは四度あるってことか!?
だとしたら、セレーナ様は僕に……。
「神崎くん、お願いです。私――」
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