【メタメタで三度目で】
「ただいまぁ……」
くたくたの状態で家に帰ると、最近の僕にとって超癒しである、異世界メイドが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
僕の専属となったメイドのリリさんが、上着を脱ぐところを手伝ってくれる。何たる好待遇。これも、マジで異世界に来てよかったと思える瞬間だった。そして、上着を脱ぐ僕の背後から、こんな風に囁きかけるのだった。
「既に夕食の支度はできています。ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……」
「そ、それとも……?」
恐る恐る振り返り、リリさんの顔を確認すると、彼女は無表情で両手をこすり合わせた。
「ダメです。これ以上は私の指が危ういので」
「ぼ、僕は別に……!!」
「それより――」
リリさんはどれだけ本気だったのか、すぐに話題を変えてしまった。
「今日は朝から、セレッソ様とアオイ様が何やら不満を零していました。先に宥めていただけると有難いのですが」
「あの二人が不満を……??」
なんだよ、あの女神ズ(女神の複数形)は。ウチに入り浸っては食っちゃ寝するだけの生活のくせに、何が不満なんだ??
「出番がないのが不満なんだよ」
顔を合わせるなり、セレッソがそう主張した。
「そうだそうだー!」
とアオイちゃんは同意する。
「私なんて一章から存在だけチラつかせて、引っ張るに引っ張った末、やっと本格的にレギュラー陣と絡むようになったと思ったら、冒頭と末尾しか出番ないんだよ?? そんなのってないよ! 魔王激おこなんだから!!」
アオイちゃん、メタ発言はやめようね。作者の「読者がいないからって投げやりになっている気持ち」が丸見えになっちゃうから。しかし、女神ズの不満は止まらず、セレッソが顔を寄せてくる。
「私に関してはメインヒロインなんだぞ。この扱いはあり得ない。抗議する。これ以上ヒロインはいらない!!」
「お、お前……メインヒロインだったのか??」
そこから、四人で夕食を食べ、女神ズの機嫌を取るためにトランプで遊んだ。セレッソはゲーム全般が最弱なくせに、負けず嫌いなものだから、延々と続き、アオイちゃんは眠ってしまうし、リリさんも呆れて自室に帰って行ってしまった。
「それにしても……アヤメの心臓か。嫌な響きのする禁断技術だな」
タイマンでババ抜きを続けながら、今回の時間の顛末をセレッソに話すと、どこか深刻な表情を浮かべるのだった。
「心当たりでもあるのか?」
「いや、何もない。ただ、禁断技術は女神戦争の時代に生まれたものばかりだからな。危険なものであることは確実だ。せめて、私たちに関係するものでなければいいのだが。……あっ」
もう何度目だろうか。最後に手元に残ったババを数秒見つめた後、セレッソは僕を睨み付けた。
「もう一回だ」
「勘弁してくれよ。もう何時だと思っているんだ? お前と違って僕は忙しかったんだ。そろそろ眠らせてくれよ」
「ダメだ。勝ち逃げは許さん。そもそも、私は出番がないことも許してないんだからな。他の女とばかり一緒に戦いやがって」
「仕方ないだろう、お前の力は規格外なんだから」
「じゃあ、もう一度だ。カードを配れ」
普通、負けた方がカードを切って配るものだろうが。
「勘弁してくれよ。本当、もう眠いんだよ。許してくれぇ……」
「許してほしいか? 許してほしいなら、私の願いを一つ叶えろ」
なんだろう。デジャブだろうか。今日だけで同じやり取り、三度目のような気がするんだけど。
「な、なんでしょうか女神様」
嫌な予感を抑えつつ、念のため聞いてみると、セレッソは女神ではなく、悪魔のような笑みを浮かべてから言うのだった。
「世界で一番私のことが好きだ、と言え。いや、宇宙一愛していると言うんだ。ほら、すぐだ。すぐすぐすぐ」
しつこく「すぐ」を繰り返すセレッソだが、僕はそこはかとない恐怖に身を震わせた。
「お、お前さ、僕に盗聴器とか仕込んでないよな?」
今日一日の行動を監視されていたとか思えない発言に、さすがの僕も警戒するのだが、セレッソは得意気に微笑みを浮かべて言うのだった。
「そんなものは必要ない。女神イヤーは地獄耳だからな」
そこからもセレッソはしつこく、眠るには僕が折れるしかなかった。
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