◆私の完璧な世界⑤
そこから、数年の間は本当に完璧だった。私たちは大人になって、お金も手にして、色々な遊びを覚えたのだ。車で遠出することもあれば、朝までお酒を飲むこともあった。修斗も勇者の資格を取って、嫌な影もない。そろそろ気持ちを伝えるべきだろうか。そんな風に思い始めたのに、戦争が始まってしまった。
「まさか、三人で同じチームを組むことになるとはな」
芳樹はブレイブシフトを撫でながら、私と修斗に微笑んだ。修斗も嬉しそうにブレイブシフトを見せてくる。
「もう少し勇者の資格を取るタイミングが遅かったら、僕だけ違うチームだったかもしれない。頑張ってよかったよ」
「三人で……生き残ろうね!」
私の言葉に、二人が頷いてくれた。だけど、戦争は思った以上に過酷だった。初戦から、イザール港でセルゲイ・アルバロノドフの部隊と戦い、ここで死ぬかもしれないと何度思ったことか。三人でいればいつも笑顔だったのに、私たちはそんな余裕さえ失いつつあった。
「次の都市を抜ければ……アッシアの首都ワクソームだ」
疲弊も限界を迎えつつあったある日のこと、オクトの移動要塞の中で二人だけで話したいと、芳樹に呼び出されたのだった。
「うん。私たち、何とか生きて帰れそうだね。また三人で何も考えず遊びたいよ」
「……そうだな」
どこか芳樹の様子が変だった。連戦中だ。疲れているのかもしれない、と顔を窺ったが、彼は私を見つめていた。真っ直ぐと。
「どうしたの?」
「話があるんだ」
彼の真剣な眼差しを見るまで、私は忘れていた。芳樹が私に好意を寄せていたという話を。
「なんだろう。今じゃないと……ダメ?」
もし、彼の話がそのことだとしたら、私の完璧な世界に、亀裂が入ってしまうのではないか。あくまで、そうなるとしたら、私が修斗に想いを伝えた後でなければならないのに……。しかし、芳樹は私の誤魔化しを許してはくれそうになかった。
「ダメだ。今すぐ話しておきたい」
「怖いよ……」
顔を背ける私だったが、芳樹に両肩を掴まれ、視線を強制されてしまう。向き合うと、芳樹の気持ちが伝わってきて、居心地が悪くて仕方がなかった。
「カレン、俺はずっと君が好きだった。お願いだ。オクトに帰ったら……俺と付き合ってくれ。頼む」
「……」
私は黙った。黙り込んだ。このまま、黙り続けることはできないか、と女神に祈ったが、芳樹は許してくれない。
「どうして、黙っているんだ?」
少し声が震えているみたいだった。
「どうしてって……」
「難しいことじゃない。イエスかノーで答えてくれればいいんだ」
「返事は……また今度にしてもいいかな」
「今がいい。どうしても」
「でも……」
「お願いだ。俺は今お前の答えを聞かないと、壊れてしまいそうなんだ」
芳樹がすがるように私の前で膝を折った。
「ワクソーム城を落とせばオクトは勝てるかもしれない。だけど、その前に俺が限界を迎えそうなんだよ。せめて、帰ってからカレンと一緒に過ごせるなら」
戦いの中でも、一番明るく振る舞っていた芳樹だが、実は疲弊し切っていたと、私は気付いていなかった。そんな彼に事実を告げられるだろうか。いつまでも黙る私に、芳樹は呟くように問うのだった。
「修斗か?」
少し考えれば分かることだ。誤魔化しようがない。
「……どうしてあいつなんだ? 本当に俺じゃないのか??」
黙ったままの私に、芳樹は震える声で言った。
「じゃあ、何でセアラちゃんに嘘を吐いたんだ? 彼女には、俺の方が好きだって言ったんだろ?」
「それは……」
「彼女を騙したのか?」
認めない私を、芳樹は責め立てた。
「あのあと、大変だったんだぞ。セアラちゃん、俺と修斗の前で手首を切ろうとして……全部、カレンのせいだったのか」
「そ、そんな……」
知らなかった。そんなことがあったなんて。芳樹の目は私を責め立てる。が、彼の表情が少し変わった。さらに冷たく、何か覚悟を決めたように。
「お前の嘘、修斗には黙っててほしいのか?」
「……うん」
「だったら、俺の言うことを聞いてくれ」
そう言って、芳樹は指先で私の顎に触れた。
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