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【親友】

「セレーナ様!!」


銀色の光を放ち続けるセレーナ様に、佐山さんが詰め寄る。美女に襲い掛かろうとするモンスター。そんな状況だが、普通と違う点は、その美女が少しも恐れた様子がないところだ。セレーナ様は詰め寄ろうとする佐山さんを真っ直ぐ見据えるだけで、浄化魔法を止めようともしない。


「頼む、皇……。僕に力を貸してくれ!」


こうなったら、奥の手だ。僕は全身のプラーナを燃やす。


「ブレイブモード!」


僕の声に反応し、ブレイブアーマーが光り輝くと同時に、耳鳴りのような駆動音を放つ。次の瞬間、体が軽くなった。一歩踏み出すと、瞬時にセレーナ様と佐山さんの間に。


「もうおしまいにしてください!」


そして、セレーナ様に振り下ろすつもりだったのであろう拳を受け止めた。ブレイブモードなら弾き返せるだろう……と思っていたが、思いのほか、力は拮抗する。パワーアップした佐山さんは、どれだけの力を有していたのだ。


「でも、僕は最強の勇者の力を引き継いだんだ。負けるわけには!!」


佐山さんのパワーを押し返し、体が離れた途端に、右のミドルキックを放った。脇腹に吸い込まれるように入った一撃だが、彼を止めるには至らない。むしろ、佐山さんは目にも留まらぬような速さで、僕の横をすり抜け、セレーナ様を襲おうとした。


「やらせない!」


だが、今の僕は普段の何倍もの速さで動くことだって可能だ。僕の横を抜けようとする佐山さんの前に周り、パンチで動きを止める。佐山さんはそれをやり過ごすと、反撃のアッパーを放ち、僕の目の前を歪な形の拳が通り過ぎた。


さらに、間髪入れず右側に回り込み、左の拳でボディを狙ってくる佐山さんだったが、僕はそれを手刀で叩き落とすと、お返しに肘を叩き込んでやる。さすがに効いたのか、よろめく佐山さん。が、すぐに超高速移動で、再び僕の横に回ろうとした。


「速い……けど、こっちだって!」


人の限界を超えたスピードによる攻防が、三度四度と続くが、簡単には決着が付かなかった。むしろ、ブレイブモードに時間的な制限がある僕の方が不利な状況だと言えるだろう。なのに、後一手が足りていない。ブレイブバスターを使うにしても誰かを巻き込む恐れがあるし、ブレイブソードに関しては剣術の心得はほぼ皆無である。どうするべきか……と焦り始めた、そのときだった。


「神崎くん、行きます! 少し眩しいかもしれませんが、彼から目を離してはいけませんよ!」


後ろからセレーナ様の声があったかと思うと、今まで以上に強烈な光が広がる。


「ぎゃあああぁぁぁーーー!!」


そして、その光に焼かれるかのような叫び声を上げて後退する佐山さん。これで終わりか、と思われたが、最後の力を振り絞るように、彼の形状がさらに変化していく。さらに、歪で鋭利な姿は、彼の怒りと憎しみを体現するようだった。


「最後の一撃がくるはずです。神崎くん!」


「分かっています!」


僕は右足にプラーナをため込むと、その部分が白い光が包まれる。それに対し、佐山さんは右腕に呪いのエネルギーをため込んだのだろうか。どす黒い煙のようなものが、彼の腕にまとわりついていた。


どっち先に当てるか。もしくは、どっちの気持ちが強いのか。そういう戦いなのかもしれない。


「かれん……!!」


佐山さんの呟き。そうだ、カレンさんを想う気持ちが、彼を強くしているかもしれない。だけど、僕だってこの病院にはハナちゃんがいる。それだけじゃない。セレーナ様とフィオナの信頼を裏切るわけにはいかないし、皇も僕にオクトを託したんだ。


「負けられないんだよ!!」


右足にこもるプラーナがさらに増し、僕の背中を押すようなセレーナ様から放たれる白銀の光も、さらに強くなったような気がした。その瞬間、佐山さんが怯むような素振りを見せ、僕はそれを見逃しはしなかった。


「今だ!」


一気に間合いを詰め、僕は蹴りを放つ。遅れて、佐山さんが迎撃の拳を放った。僕のキックと佐山さんのパンチが交錯し、白光と黒煙がぶつかり合うのだった。



病院の廊下を満たしていた光が消える。僕は衝撃で吹き飛ばされた体を起こした。すると、傍らにセレーナ様が立ち、僕に手を差し伸べる。


「どうやら、私たちが勝ったようです。さぁ、例のものを回収しましょう」


「……はい!」


僕は彼女の手を取り、立ち上がり、佐山さんを見る。彼は僕のキックを受けて、膝を付いた状態で気を失っているみたいだった。全身灰色に硬化していた体も、まるで石膏が剥げ落ちるように崩壊し、本来の彼の姿が垣間見えている。


「見てください。あれです」


セレーナ様が人差し指を向けた方向は、佐山さんの肩口辺りで、異様な突起があった。あれが、禁断技術に指定された、アヤメの心臓か。


「私が呪いを防ぎます。神崎くん、あれを取ってもらえますか?」


「わ、分かりました」


へたれと思われたくないから承諾したけど、あれって凄い呪いを出しているんだよね?


あんま触りたくないなぁ。とは言え、仕事である。僕は恐る恐る近付き、佐山さんの肩口に手を伸ばしたのだが……。


「うあああぁぁぁ!!」


突然、目を開いた佐山さんが僕の腕を掴んだ。しかし、その力はあまりに弱い。簡単にねじ伏せることはできたが、彼の目から黒い涙が零れ落ちるところを、僕は見てしまった。


「奪わないでくれ。俺は、カレンを助ける。そのためには……これが、必要なんだ!!」


「佐山さん……」


どうやって彼を説得すべきか。僕は少し迷ってしまった。だが、次の瞬間、彼は不意な痛みを受けたかのように、目を見開く。そして、肩口にあったアヤメの心臓が後ろから引きちぎられた。


「お前にカレンを助けられるわけがないだろう、修斗……」


佐山さんはゆっくりと振り返る。背後からアヤメの心臓を奪い取った声の主が、何者なのか確認するために。


「本当にのろまなやつだよ、お前は」


背後の人物は、呪いに塗れた佐山さんに負けないくらい、憎しみがこもった声で告げる。


「大人しい顔しているくせに、肝心なときだけ一人で突っ走って周りを巻き込みやがって……昔からそういうところ、本当に見てて苛立っていたんだよ!」


振り返った佐山さんから、アヤメの心臓を奪い取った人物。それは藤原さんだった。

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