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【姿は変わっても元勇者】

佐山さんの攻撃は続く。深海魚のような禍々しい口を開いたかと思うと、その中に光が溢れた。


「まさか、ビームか!?」


閃光が放たれる。躱すこともできたが、後ろにはセレーナ様が。


「ブレイブナックル!」


プラーナを込めたパンチで、ビーム攻撃を相殺する。どんな性質の攻撃か、確信はなかったが、プラーナならば防げるという予感があった。きっと、これまでの経験がなければ、この発想には至らなかっただろう。


「ぐぬぬぬっ!」


とは言え、ビーム攻撃の威力は凄まじいものがある。その勢いに体が流されそうになるが、退くわけにもいかない。


「負けるかあぁぁぁ!」


プラーナを全力で練り、右腕に集中させ、ビームを打ち消しながら前進する。


「やめてくれ!!」


そして、十分に近付いてから、開いた手で佐山さんの横腹を殴りつけた。


「ごあっ!!」


佐山さんはダメージを受けたのか、呻き声を漏らしつつ、ビームを停止する。畳みかけるなら今だ。僕はさらにブレイブナックルを叩き込もうとするが、佐山さんはそれをブロックすると、反撃の右フックを放ってきた。何とか身を屈めて躱すが、さらに追撃の膝が飛んでくる!


「ぬわぁっ!!」


何とかガードで受けたが、その威力に体が浮き上がった。


「そうか、佐山さんは勇者だ。ノームド化したとは言え、その技術は体に染みついているってわけか」


僕は距離を取りつつ、考えを改めたが、セレーナ様が補足を入れる。


「ノームドは上級であればあるほど、知性も高くなります。思考は呪いによって汚染されているようですが、戦闘における技術や経験値は、歴戦の勇者レベルと考えた方がいいでしょう」


なるほど。今まで戦ったノームドは、野性的な印象が強かったが、上級だと勝手が違うのか。プロの格闘技術に、ビームのようなノームド特有の攻撃が加わると考えた方が良いのかもしれない。と、心構えを整理している間に……。


「うわぁっ!!」


佐山さんの指が瞬間的に伸び、鞭のように僕を襲った。反射的にガードで防いだものの、それは僕の腕に巻き付き、自由を奪おうとする。さらに、佐山さんの指は収縮をはじめ、リールのように僕を引き寄せようとした。同時に、佐山さんは空いた手をナイフのような性質に変化させ、僕の接近を待ち受ける。


「こなくそ!!」


僕と佐山さんの距離がゼロになる寸前、ナイフのような腕が突き出される。が、僕は僕で、千冬から食らった前蹴りを真似て、佐山さんの鳩尾へ突き出した。二人の間に火花が散る。それはブレイブアーマーが切り裂かれたためによるものだが……。


「ぐおおおぉぉぉ……!!」


佐山さんが膝を付く。僕の前蹴りが効いたのだ! 彼の攻撃よりも、僕の蹴りがリーチの差で深く入ったらしい。ただ、僕の足がもう三センチほど短かったら、ブレイブアーマーを突き破られたかもしれない、と思うと鳥肌が立った。


でも、これは決着が付いたと言えるだろう。指が巻き付いた腕も解放されたので、彼を抑え込もうと再び接近したが、佐山さんが立ち上がりつつ、ナイフと化したままの腕を横一文字に振るった。


「まだやれるのかっ!?」


僕は胸板を切り裂かれながらも、距離を取ろうとするが、佐山さんはそれを許しはしない。どんどん前に出て腕を振るってくるのだった。


「だったら!」


僕は佐山さんの斬撃を潜りつつ、彼の腰に向かってタックルを仕掛ける。タイミングは完璧。佐山さんは仰向けに倒れ、背中を床につける形となった。


「少し強めに殴るけど、許してくださいね!!」


佐山さんの上に乗ってから、ナイフに変化した腕を膝で抑えつけつつ、彼の顔面へ拳を落とす。二度、三度、四度。普通の人間ならば意識を奪うほどの強烈な攻撃だったのだが……。


「か、れん!!」


佐山さんの口内が光る。


「させるか!」


僕はプラーナを込めたパンチを、佐山さんの口にめがけて落とすが、少しばかり遅かったようだ。僕のブレイブナックルと佐山さんのビーム攻撃がぶつかり、二人の間でちょっとした爆発が起こる。僕はその衝撃に吹き飛ばされ、すぐさま立ち上がるが、佐山さんは唸り声をあげながら、その形状を変化させていた。


「神崎くん、さらにパワーがアップしているようです。気を付けて!」


セレーナ様の忠告は正しかった。次の瞬間、床を蹴った佐山さんのスピードは、今までのものを遥かに上回っていたのだ。


「ぎゃあっ!!」


そして、彼の体が触れ方と思うと、僕の体は後方に吹き飛ばされる。大したダメージはなかったけど、とんでもないパワーだ。それよりも、まずいぞ!!


「セレーナ様!!」


どうやら、佐山さんの狙いは、僕を吹き飛ばして、セレーナ様を撃破することだったようだ。

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