【浄化の戦い】
藤原さんは悲鳴を聞き、とんでもない反射神経で振り返ると、廊下を駆けた。その先に、カレンさんの病室があることは間違いと判断し、僕とセレーナ様も後を追ったのだが……。
「大丈夫ですか!?」
病室の前で倒れる女性を藤原さんが助けていた。彼女は看護師さんのようだが、扉が開いたままの病室の前で、腰を抜かしているみたいだ。と、言うことはつまり……。
「中に、誰かいたんですか?」
藤原さんの質問に看護師さんが、震えながら頷く。
「修斗……。そこにいるのか?」
藤原さんは、看護師さんを立たせながら、病室の奥に語り掛ける。
「出てきてくれ。話を……しよう」
慎重な呼びかけに返事はないどころか、気配一つない。もしかしたら、そこに佐山さんはいないのではないか。そう思うほど、静かなものだった。
「カレンが寝ているんだ。外で話そう。昔から、カレンは寝起きが悪いだろう? 俺たちのせいで起こしたら、とんでもないことになる。分かるよな?」
藤原さんが引き続き語り掛け、僕はゆっくりと病室の方へ近付く。
「カレンに会いにきただけなのだろ? 誰も責めはしないさ。特に俺は……お前の気持ちも、知っているつもりだから」
「か、れ、ん……」
病室の中から、低い声が。その異質な声色に、藤原さんも驚きを覚えたのか、息を飲む。
「ああ、そうだ。カレンもお前のことを心配していた。だから、これ以上、迷惑をかけるわけにはいかない。一度外で……ゆっくり話そう」
低い唸り声が聞こえた。まるで、獣が病室の中に潜んでいるような。しかし、それがピタリと止まると、またも嫌な沈黙が。
「修斗?」
藤原さんが再度呼びかけ、病室の方へ歩みを進めた瞬間だった。
「か、れ、ん!!」
病室の中から、灰色の影が飛び出し、獲物を狙う獣のごとく、藤原さんに食らいつこうとした。
「危ない!!」
が、同時に僕も床を蹴り、藤原さんと灰色の影の間に割って入る。凄まじい衝撃だったが、僕はそれを受け止めた。
「藤原さん、早く離れて!!」
「でも、カレンが……!!」
正常な判断ができない藤原さんと看護師さんを、その場から引き離したのは、セレーナ様だった。
「離れていてください。私たちがやります」
「でも、まだ説得できるかもしれません……!!」
「離れなさい」
セレーナ様の有無を言わさない態度に、藤原さんは引き下がると、十分に離れ、看護師の女性を避難させた。それを見送りつつ、セレーナ様は僕に言う。
「神崎くん、この辺りの病室は動けない人がほとんどで、避難もできなかったようです」
僕は頷く。
「つまり、この廊下で佐山さんを完全に無害化しなければならない、ということですね?」
「私は彼の浄化に専念します」
そうか、セレーナ様はノームド化した人間を元に戻す魔法を使う。この状況なら、佐山さんを人間の姿に戻して、アヤメの心臓も取り戻せるかもしれない。
だが、こういう技って言うのは、使用中は動けないって言うのがお決まりだ。僕の予想は当たっていたのか、セレーナ様は言った。
「なので、神崎くん……できるだけ長くノームドを抑え込んでください。上級のノームドと戦った経験はありますか?」
上級?
過去にノームドと戦ったことはあるけど、何級だったかなんて覚えてないよ!
「分かりません! でも、絶対にセレーナ様を守ってみせます」
「……期待してますよ」
微笑みを浮かべたであろうセレーナ様に頷くと、佐山さんは低い唸り声をあげ、こちらを威嚇する。ノームドは意思が読めないところが、苦手だけど……やってみせるしかない!
セレーナ様がロッドを床に突き立て、全身から銀の光を放ち始めた。
「女神セレッソよ! 私に浄化の力を!!」
廊下が白銀の光に満たされていく。僕には少し温かい風が吹いたように感じられたが、佐山さんは強烈な熱波を受けたように、全身で痛みを訴えながら異質な悲鳴を上げた。
「少し我慢してくださいね!!」
僕はがら空きになった佐山さんの横腹に、ミドルキックを打ち込む。ドスンッ、と確かな手応えがあったが……。
「か、堅い!!」
超分厚いサンドバッグを蹴ったような、妙な感覚だ。
「ぎゃあああぁぁぁーーー!!」
驚いている間に、佐山さんが悲鳴を上げながら拳を振るった。何とか身をよじって躱すが、肩の辺りをかすってしまう。ほんの少し、かすっただけなのに……僕の体は後ろに投げ出されてしまう。
「な、なんだ……このパワーは!?」
これが、上級ノームドってことなのか??
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