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【第三の敵】

「エグゼチェンジ!!」


千冬の体が真っ赤な光に包まれる。くそっ、ハナちゃんと同じ色か。ちょっと羨ましいな……。そして、真っ赤なボディに包まれる千冬は、その超攻撃的な姿勢を窺わせた。


「俺を馬鹿にしたこと、後悔させてやるからな!」


くうぅぅぅ、性格も暑苦しいけど、ハナちゃんとは違った暴力的な何かを感じる!


昨日戦ったときのことを思うと、少しでも気を抜いたら、一瞬で飲み込まれてしまいそうだ。


両手を小刻みに揺らし、時折パンチのフェイントを見せながら接近してくる千冬。あの強烈なパンチが飛んでくると思うと、凄まじいプレッシャーだった。でも、僕だって打撃には自信がある。向こうが打ってきたら、躱して、打ち返すだけだ!


「かかってこい!」


僕も自分に気合を入れつつ、相手を煽る。しかし、千冬は勢いとパワーだけで押し切るタイプに見えて、実は冷静に戦うから恐ろしい。僕も集中して戦わなければ。


距離が詰まる。右がくるか、左がくるのか。僕は千冬の両手の動きを注視したが。


「くらえ!」


やつが放ってきたのは、ローキックだった。しかも、太腿の辺りではなく脹脛(ふくらはぎ)を狙った嫌な一撃。その威力に、僕の足は流れてバランスを崩してしまう。


そうだ、強烈なパンチの印象ばかりが残っていたが、こいつはキックも得意なんだ。昨日も最初の一撃は前蹴りが腹に突き刺さって、動けなくなったのだから!!


「俺の、勝ちだぁぁぁ!!」


千冬が必殺の右フックを放つ。でも、僕は分かっていた。いや、体が勝手に動いた。蹴りで気を逸らした後は、絶対にパンチがくるって!


「こなくそ!!」


僕は体を低くしてパンチをやり過ごしつつ、千冬の腰に組み付いた。昨日は、タックルも耐えられたが、今度はタイミングもばっちり!


千冬はひっくり返って、尻もちをついた。何とか背中を付けさせようと、ポジションを取ろうとするが、千冬も引き剥がそうと僕の顔面を手の平で突き放そうとする。


「逃がすかぁぁぁ!!」


立たれたら、またあのパンチのプレッシャーと向き合わなければならない。何としてでも、寝かせた状態でこっちが優位なポジションを取り、殴りつけたいところだが……。


「その程度で抑え込めると思うなよ!」


千冬は強引に立って、僕を引き離してしまう。そこに千冬のミドルキックが。ドスンッ、と僕の横腹に響く衝撃。不意に受けていたら、胃の中のものを全部吐き出していたかもしれない。だけど、僕は根性で耐えながら、千冬の蹴り足をキャッチした。


「もう一度転ばしてやる!!」


足を引っ張り、何とかバランスを崩そうとするが、千冬は片足で耐えながらも、パンチを放ってきた。手の力だけで打ったパンチなので威力は低いが、二発、三発と受けると効いてしまいそうで、僕は手を離し、後ろに退がる。だが、千冬は間髪入れずに距離を縮め、またも僕の足に蹴りを叩き込んでくれた。


「いってぇ……!!」


やばい、もう一発これもらったら、歩けなくなるかも!?


僕が弱気になった瞬間、千冬はそれを見逃すまいと一気に距離を詰めてきた。そして、本命と言えるだろう左右のフックを連続で放ってくる。一発目はこめかみ、二発目は横腹だ。僕は反射的に頭を優先して守ったため、鋭いパンチを腹で受けてしまい、小さくうめき声を漏らしつながら、退がることを強いられた。


「とどめだ!!」


千冬が全力の一撃を放たんと、さらに前へ出たが……。


「この野郎!!」


僕はそれに合わせて、退がりながらの右フックを放った。ガツンッと確かな手応えに、今度は千冬がふらふらと後ろに退がる。


これは効いてるぞ!


すかさず追撃を、と思ったが、千冬に蹴られた足が言うことを聞かない。その間に、千冬は何度か深呼吸を繰り返し、体勢を整えてしまう。ただ、ダメージは浅くない。


行くなら今だ!


でも、千冬のパンチを掻い潜り、こっちが先に当てられるだろうか……。お互いの緊張が空気に漂った、そのときだった。


「神崎くん、そっちにノームドが!!」


セレーナ様の声に振り返ると、さっきまで巨大な佐山さんの体が横たわっていた辺りから、人影が飛び出すところだった。


「も、もしかして……!!」


たぶん、巨体から人間サイズの佐山さんが出てきたのだろう。虫の脱皮したみたいに! 捕まえようとするが、ぬるっとすり抜けられ、病院の方へ。


パンッ、と乾いた音。

佐山さんが何かに躓いたように転倒する。雨宮くんがやってくれたのか??


「逃がさない!!」


今度こそ捕らえようと駆け出すが……。


「逃がしてあげてくださいな」


どこかで聞いた女の声。そして、僕の目の前が、急に渦のように歪んだ。これは知っている。


「ナターシャか!?」


「あら、覚えてくださっていたとは、嬉しいですね」


気付くと、月光を遮る何者かの影が宙に浮いている。もしかして、あいつが……。オクトの王族であるブライアを唆し、アッシアの地で僕たちを襲撃した謎の敵、ナターシャがそこにいるようだった。

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