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【最も野蛮な方法で】

銀色の光の中、聖女様は立ち上がり、僕の方に振り返った。


「神崎くん、私……嬉しいです!」


「はい?」


彼女は頷く。


「仲間が傍いてくれる。それだけのことが、こんなに嬉しいとは知りませんでした!」


「そう……かも、しれないですね」


たぶん、僕も彼女の気持ちが分かった。何かに共感してくれる。一緒に考えてくれる。悲しんでくれる。そんな仲間は、僕もこの世界にくるまで存在しなかったから。きっと、彼女もリアルで接してくれる仲間が、どんなに欲しても現れなかったのだろう。だから……。


「だから」


と彼女は言う。


「だから、見ていてください! 私がちゃんとファンの期待に応えるところを……!!」


セレーナ様は地を蹴る。そして、低い唸る佐山さんに詰め寄ると、巨大な頭を両手で抱えた。


「ふんぬっ!!」


銀色の光をまき散らしながら、彼女は佐山さんの巨体を……持ち上げた!!


「おりゃあああぁぁぁーーー!!」


持ち上げるどころか、ぶんぶんと音を立てて振り回すと、病院がある方向とは逆の空に、彼を放り投げた。黒く染まり始めた夜空に、獣の悲鳴が響き渡り、その巨体が地面に衝突する。それと同時に、高々と跳躍していたセレーナ様が、獣を踏み付けるように着地した。


ドンッ、という衝撃と共に獣の悲鳴が遮られる。さらに、ぐったりと力を失う獣に、セレーナ様はロッドを突き刺した。


「女神セレッソよ! 私に浄化の力を!!」


再びセレーナ様のブレイブアーマーから銀色の光が発せられると、気のせいだろうか……巨大だった佐山さんの体が徐々に小さくなっているような!?


「セレーナ様、それ……もしかして!?」


「はい、私が大聖女と呼ばれる所以がこれです。この世界でただ一人、ノームド化した人間を浄化する魔法を扱えるのです!」


ゆっくりではある。だが、確かに佐山さんの体は小さくなっている。しかも、佐山さんはセレーナ様に踏みつぶされて気を失ったのか、暴れ出すことはなさそうだ。これなら……!!


「下品なまでに派手は光が広がっていると思いやってきたら……やはり貴方たちでしたか」


静かな女性の声がどこからか。振り返るとそこには、二人組の男女が。


「副室長、あの化け物……明らかに異常です!」


「そうですね。あの中に封印指定に値する何かが埋め込まれている。そう考えるのが自然でしょう」


間違いない。封印指定の執行官、リザと千冬だ。


辺りが急に暗くなる。セレーナ様は浄化の光を停止させたようだ。


「セレーナ様、どうして?? あと少しで……」


セレーナ様が小さく首を横に振り、僕に耳打ちした。


「ここで彼を浄化してしまえば、例のものが露出する恐れがあります。まずは執行官を追い払い、それからにしましょう」


「わ、分かりました。でも……」


でも、執行官を相手にしているうちに、佐山さんが目を覚まして、また病院の方に向かったらどうするんだ?


執行官の二人がこちらに歩みを進めた。


「千冬、貴方はあの逃げ腰の勇者の相手を」


「わかりましたぁぁぁ!!」


千冬はやる気に満ちた返事をするが、逃げ腰の勇者って僕のことだよな??


ここに勇者は僕しかいないんだから。そんなに逃げ腰だったか??


「怪力聖女の方は私が制圧します。封印指定の回収はその後でゆっくり行いましょう」


リザがわずかに微笑んだようだが、セレーナ様は呆れたと言わんばかりに溜め息を吐いた。


「これはただのノームド駆除の仕事ですよ? 貴方たちは他機関の仕事に手を出すほど暇なのでしょうか?」


「誤魔化しは無駄です。それに、私たちの仕事は疑わしいものは罰せよ、ですから」


「話しが通じない人を相手にするのは、本当に困ったものですね。どう対処したらいいものか……」


うんざりだと首を横に振るセレーナ様だが、リザは微笑みを浮かべた。先程とは違い、明らかに敵意を含んだ、挑発的な笑みを。


「そんなの一つしかありませんよ。貴方が得意な、最も野蛮な方法です」


「別に得意と言うわけではないのですが……まぁ、仕方がありませんね。貴方のようなタイプは、そういう野蛮な方法でしか理解できないようですし」


ヒリヒリするような煽り合いは終わったのか、二人とも無言になった。そして、リザが右手を左腕にかざす。……ということは、もしかして――!!


「エグゼチェンジ!」


リザが呟くと、今度は白い光が闇を照らすのだった。

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