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【ふざけるな】

「カ、レ、ン! カ、レ、ン!!」


佐山さんは想い人の名を叫びながら、オクトの街を走り抜けた。入り組んだ道を何度も間違いならがらも、やはりと言うべきか、少しずつオクト大学病院へ近付きつつある。


あそこには、ハナちゃんだっているんだ。

これ以上は、暴れさせるわけにはいかない!


「神崎くん、彼のスピードが上がっています!」


「た、確かに……少しずつ距離が開いているような……!!」


そう、あと少しでオクト大学病院が見えてくるところで、佐山さんの走るスピードが上がり出した。


「何としてでも先回して食い止めないと……!!」


僕もセレーナ様もペースを上げようとするが、差は広がる一方だ。佐山さんもあと少しだと思って、力を振り絞っているのかもしれない。


「行けません、病院が見えてきました!」


セレーナ様が言う通り、病院が正面に姿を現す。なのに、追いつける気がしない……!!


「こうなったら、ブレイブモードを……」


もしましたら、この後に執行官との戦いが控えているかもしれないが、切り札を使うしかない。そう覚悟を決めたが、フィオナからの通信が入った。


『待ちなさい、誠! あと十秒で目標は足を止める。だから、二人は走り続けて、絶対に彼の前に回り込んで!』


「足を止めるって……どうしてそんなことが分かるんだ??」


『良いから、私のことを信じなさい!』


「わ、分かった! セレーナ様、目標が止まるみたいです。このまま行きましょう!」


佐山さんはどんどん僕たちを突き放すが、僕とセレーナ様は諦めず、全力疾走を続けた。フィオナが何か秘策を用意してくれていると信じて。そして、フィオナが言った十秒が経過しよとしたそのときだった。


「おおおぉぉぉーーーん!」


佐山さんの巨体がひっくり返った!


「な、何があったんだ!?」


本当に突然だったし、佐山さんが見えない壁でもぶち当たったようにしか思えなかったが、セレーナ様は何が起こったのか、理解しているようだった。


「今のは魔弾による攻撃ですね」


「魔弾?? ってことは、もしかして……」


『ちゃんと命中したみたいだね』


フィオナではない、誰かの声で通信が入る。だが、その声が誰なのか、僕は一瞬で理解した。


「雨宮くん!?」


『そうだよー。いやー、授業中だったのにヘリコプターで拉致されてさ、気付いたら病院の屋上でライフル持たされて理解が追いつかなかったんだけど、神崎くんを手伝えたのなら良かったよ』


「大助かりだよ!! あとは任せて!!」


僕とセレーナ様は一気に佐山さんに追いつく。セレーナ様に関しては、ロッドを取り出すと、それをプラーナの光で満たした。


「これで終わりにします! うおりゃあああーーー!!」


倒れて動かない佐山さんに、真上からロッドを叩き下ろすセレーナ様。その威力は、ちょっとした爆発である。


とんでもない衝撃に、僕も吹き飛ばされないよう、踏ん張らなければならなかったし、一度舞い上がった砂埃が霧のように辺りを包んで、なかなか周りが見えなかった。


そんな一撃が直撃したのだ。

いくら強靭な肉体を持つノームドであっても、しばらくは動けないだろう。


「セレーナ様! やったんですか!?」


砂埃が晴れて、彼女の姿を見つけ、声をかける。が、セレーナ様はがっくりと肩を落として呟くのだった。


「……残念ながら、間に合わなかったようです」


「間に合わなかった??」


佐山さんの方を見ると、彼は足の先を痙攣させていたが、それが停止すると、目覚めた獣のように、ゆっくりと身を起こすのだった。そして、戦意を失ったわけではないとアピールするように、低く唸る。


「でも、ちゃんと前に回り込めたじゃないですか。執行官も現れる様子もないし、ここからですよ!」


まだ慌てるような時間じゃない。

冷静なバスケットボールプレイヤーのように、そう伝えたつもりだったが、


彼女は悔し気に首を横に振る。


「違うんです。あと五分しかないんです」


「五分? 何の時間ですか??」


「今日の……配信予定時間です!!」


「…………はい?」


ふ、ふ、ふ


ふざけるなーーー!!


この聖女様、状況分かっているのか!?

昨日の失敗があって、まだそれを言うのか??


「カ、レ、ン!!」


そして、突進してくる佐山さん。僕とセレーナ様は二人でそれを受け止めるが……。


「ちょっとセレーナ様! もっと力出してくださいよ!」


彼女は明らかに全力ではなかった。


「ごめんなさい。配信のことが気になって……集中できないのです!!」


もう……なんだよ、この脳筋ポンコツ聖女は!!

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