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【状況悪化】

咆哮を上げながら、佐山さんは巨大化する。それはもう大型のダンプカーくらいのサイズがある、巨大な四足歩行の獣のようだった。しかも、そんな佐山さんが動き出し、街中を突っ走り始める。


「まずいぞ! フィオナ聞こえるか?? 佐山さんが巨大化して移動を始めた。たぶん、北北東の方向!」


『北北東か……。避難は進めているけど、イレギュラーがあった場合は、そっちに任せるから!』


そりゃそうだよな。オクトは大都会。完全に予測できないノームドの動きに対し、すべての人々を非難させるなんて不可能だろう。


幸いなことに佐山さんの移動速度は、ブレイブアーマーを装着した僕らの速力と同等だ。何とか追いかけることはできるが、それ以上の対処は……。


「ぎゃあああーーー!!」


そんな悪い予感が当たってしまった。取り残されたのであろうお姉さんが、佐山さんが進む方向で腰を抜かしている。それを見たセレーナ様が走るペースを上げた。


「神崎くん、私が動きを止めます! あの女性を助けてください!」


「止めるってどうやって??」


「そんなの、決まっているではありませんか!」


はいはい、力づくで止めるってことね!!

しかし、この状況でそれ以上の方法を考える余裕はない。僕もセレーナ様に倣ってペースを上げた。


セレーナ様はロッドを縮めてから、背中に収めると、地を蹴って一気に佐山さんに追いつく。


「止まりな、さーーーい!!」


そして、佐山さんの臀部辺りにあったわずかな出っ張りを掴むと、文字通り力任せに引き寄せた。綱引きの要領で佐山さんを止めるセレーナ様だが、どう見ても年末の特番で見るダンプカーを自力で引っ張るびっくり人間状態である。


「ここは危険です、早く逃げて!」


もちろん、僕もただ見ているわけではない。セレーナ様と佐山さんの力が拮抗している間に、逃げ遅れたお姉さんを助ける。が、彼女は完全に腰が抜けているらしく、立ち上がることすらままならないようだ。


「くそ、こうなったら!」


僕はお姉さんを抱えたままジャンプし、五階くらいの建物の屋上に避難させた。


「セレーナ様、そのままでお願いします!」


そして、地上のセレーナ様に呼びかけてから、屋上から飛び降りる。落下先はもちろん、佐山さんの上だ!


「本日二度目の、ブレイブキーーーック!!」


落下の力にプラーナまで込めた一撃を、佐山さんの背中に打ち込む。ズドンッ、という衝撃が周辺に響き、佐山さんは押し潰されたかのように四肢を折った。


「やったか!?」


手応えはあった。しかし――。


「うがあああぁぁぁ!!」


佐山さんが勢いよく立ち上がり、僕を振り落とす。その暴れっぷりは激しく、さすがのセレーナ様も佐山さんを抑えきれず、宙に体を投げ出されてしまった。


「久しぶりに力負けしました。正直、悔しいです……」


僕の横に着地したセレーナ様だったが、言葉通り悔しそうに拳を握りしめている。さすがにノームドが相手なんだから悔しがらなくても……。


「しかし、確実にダメージは与えているはず。神崎くん、今と同じ攻撃をもう一度!」


そう言って、セレーナ様は再び佐山さんの方へ接近しかけたが、獣のような彼が低く唸りながら、視線をさ迷わせた。


「混乱しているのか……??」


ここがどこかのか考えているのだろうか。


いや……まるで誰かを探しているようだ。すると、佐山さんが獣になってしまった口から言葉を発した。


「……カ、レ、ン」


そして、再び雄たけびを上げながら走り出す。同時に僕たちも彼の後を追ったが……。


「そういうことか!」


僕には佐山さんのどこに向かっているのか、分かってしまった。


「どういうことなんです??」


答えを求めるセレーナ様と、状況を見守っているであろうフィオナに、彼の目的地を伝えた。


「佐山さんはオクト大学病院に向かっているんだ!」


「私たちがさっきまでいた場所ではないですか!」


「はい。そこに彼の幼馴染、カレンさんがいるんです。たぶん、佐山さんは混乱する頭で、幼馴染のカレンさんに会いたいと思っているんだ!」


『やっぱり、そういうことよね』


落ち着いたフィオナの声が聞こえてきた。


『良いニュースと悪いニュースよ。オクト大学病院には既に援軍を向かわせている。だけど、封印機関もそっちに向かっているわ!』


ま、マジかよ。

もしかして、佐山さんを普通に止めるだけだと、まずいってこと??


心の中に浮かんだ疑問に答えるみたいに、フィオナが補足する。


『つまり、執行官にバレずに目標を無害化し、例のものも回収しなければならない。二人とも……頼んだわよ!』

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