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【脳筋聖女】

「目標のパワーは遭遇時から各段に上がったようですね。とてつもない怪力とスピード……脅威に値します」


セレーナ様はそう分析するが、彼女の攻撃で吹き飛んだ佐山さんは未だに立ち上がれず、壊れたロボットのように不可解な動きで、のたうち回っていた。


「さぁ、神崎くん。二人で畳みかけましょう!」


巨大なロッドを掲げ、僕を鼓舞するセレーナ様だが……この聖女様、ノームドなんかより、ぜんぜんパワフルなのでは? だって、ノームドとしてパワーアップした佐山さんをロッドでぶっ叩いてから、思いっきり蹴っ飛ばしただけで、大ダメージを与えているんだもの。


「ぐ、が、がががが!!」


とは言え、常人を遥かに超える生命力のノームド。再び立ち上がると、こちらを威嚇するように咆哮を上げた。ちょっと前の僕なら、その勢いに怯えてへたり込むほどの迫力ではないか。実際、今の僕も逃げ腰になっているのだが……隣のセレーナ様は背筋も真っ直ぐに、凛としたただずまいで言うのだった。


「神崎くん、作戦があります」


「ほ、本当ですか??」


セレーナ様は頷く。


よかったーーー!!

相手は巨体の化け物みたいなノームドだ。正面からやり合うより、確実な作戦で倒せるなら、そっちが有難いよなぁぁぁ。


で、どんな作戦なんだ??


「こういうときは、シンプルに行きましょう」


「シンプル、ですか……?」


「はい。私が正面からこれで殴ります」


と、セレーナ様はロッドを少し持ち上げる。さらに……。


「殴って、殴ります。その間に、神崎くんは目標の後ろか横に回って、プラーナを込めた一撃を全力で叩き込んでください」


「……それ、だけですか?」


「もちろんです」


な、な、なんだよ!!

作戦って言うから、ノームドの弱点を攻撃するために、かく乱したり、虚を突いたり、そういうことじゃないのか??


セレーナ様の作戦って、ただの力でねじ伏せるって言ってるだけじゃん!!


もっと、ちゃんとした作戦を立てよう、と提案しようと思ったが――。


「では、行きますよ!」


「あ、ちょっと待って!!」


セレーナ様は一人で飛び出してしまう。


……もう、あの脳筋聖女!!

あんな戦車みたいな相手に、正面から殴りかかるって、どういう神経しているんだよ!!


と、無鉄砲っぷりに憤る僕だったが、信じられないものを見てしまうのだった……。


「どっせぇぇぇーーーい!!」


セレーナ様は、正面からロッドを振り回し、佐山さんを横腹を殴りつける。それはもう力任せな一撃でしかないようだったが、佐山さんの巨体が揺らぐ。が、もちろんノームド化した肉体がそれだけで動きを止めるわけがない。


「ぐおぉぉぉーーー!!」


佐山さんが雄たけびと共に、太い腕を振るうと、セレーナ様を薙ぎ倒そうとした。


「むっ!?」


しかし、セレーナ様は左腕一本のガードで受け止め、少したたらを踏んだかと思うと、すぐに反撃へ移る。


「おりゃあああーーーい!!」


今度はロッドを思いっきり振りかぶり、佐山さんの脳天に打ち下ろす。どれだけのパワーが込められたのか、ロッドは頭にめり込み、その形を変形させた。す、すごい。マジで正面からノームドを叩き潰そうとしているぞ……。


「もう一発ーーー!!」


セレーナ様は軽く飛び上がりながら、ロッドを振り回して、佐山さんの側頭部に打ち付ける。ぐらっ、と佐山さんが倒れると思ったが、ぐっと腕を伸ばすとセレーナ様の首を掴んだ。


「があああぁぁぁーーー!!」


やばい、あのままへし折る気だ。さすがのセレーナ様も呻き声を漏らしながら、ただ耐えるしかないらしい。ここはもちろん僕が……!!


「離せえええーーー!!」


佐山さんの伸びきった腕を蹴り上げると、怯んだ獣のような声を上げつつ、彼はセレーナ様を解放した。


「セレーナ様、行けます!」


「分かりました! ――神意執行!!」


セレーナ様のロッドがプラーナに反応して光り輝く。同時に、僕の右足もプラーナの輝きに満ちた。


「ブレイブ、キック!!」

「うおりゃあああーーー!」


僕のキックとセレーナ様のロッドが、佐山さんを挟み込むと、凄まじい衝撃が巻き起こる。これだったら、誰が相手でも動けまい……と思ったのだが、佐山さんは倒れはしなかった。


「うがうがうがぁぁぁーーー!!」


それどころか、彼の体はさらに膨れ上がり、より巨大なものになってしまうのだった。

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