【街中の戦闘】
『誠、大変よ』
電話の向こうのフィオナは、言葉に反して嫌に冷静だった。たぶん、本当にまずい状況だからこそ、感情を抑え込んでいるのだろう。
『昨日、回収した佐山修斗が脱走して、街中で暴れている。誠は今どこ?』
「オクト大学病院にいる」
『まだスクールの時間でしょう! なんでそんなところに……』
フィオナは想定外の僕の行動を何だか不審に思ったようだが、何とかそれも飲み込んだらしい。
『いえ、ちょうどいいわ。目標はオクト城近くにある秘密研究所を出て、そっちの方に向かっている。位置情報をリアルタイムで表示させるから、ブレイブアーマーを装着して!』
「分かった!」
『それから、教会がセレーナを派遣するって。向こうと連絡が取れたら、彼女の位置情報も共有するから、まずは合流しなさい』
「大丈夫! セレーナ様なら今隣にいるから、二人で向かうよ!」
『はぁ!? なんで一緒なのよ!』
しまった。また余計なことを言って怒らせてしまいそうだ。
「一度変身するから、電話は切るよ!」
『ちょ、なんで一緒なのか説明――』
僕が電話を切ると、セレーナ様も偉い人との会話が終わったところらしく、こちらを見て頷いた。僕も頷き返し、左腕にブレイブシフトを装着する。
「変身!」
白い光が僕の包み、それが純白のブレイブアーマーに変化する。
「ブレイブチェンジ!」
一方、セレーナ様も光に包まれ、銀のブレイブアーマーをまとった。
『ちょっと、誠! 聞こえているの??』
変身するなり、耳元でフィオナの声が。
「聞こえているよ。で、佐山さんはどっち??」
『……目標の位置をマップに表示する。あと、方向もアナウンスが出るはずだから、それに従って』
「分かった。セレーナ様、僕が案内します!」
「はい、お願いします!」
ブレイブアーマーの脚力で一気に跳躍し、建造物の上に飛び乗ると、屋根から屋根へ移動を繰り返した。耳元でフィオナが「本当に一緒にいるんだ。帰ったら覚悟しなさいよ……」と呟いたが、無視を決め込む。
とは言え、帰ったらどう説明すればいいんだ??
「思ったより近い。けど……既に騒ぎになっているぞ!」
「神崎くん、あれを!」
セレーナ様が指を向けた方で、何やら人だかりができていた。少し距離を取って、遠巻きに何かを見ているらしい。
「あれは……強化兵?? いや、ノームドなのか??」
人だかりの中心。そこには一人の男性がうずくまっている。が、その姿は明らかに異常だ。左半身が灰色に変色し、その部分は明らかに硬質化している。そして、佐山さんが僕らの接近を察知したように、こちらを向いたのだが、片方の瞳は赤かった。
「いけない。神崎くん、市民を守ってください!」
「えっ??」
よく分からないが、僕とセレーナ様が人垣の前に着地するとほぼ同時に、佐山さんが獣のような雄たけびを上げながら地を蹴った。人ではあり得ないスピードによる猛突進。しかも、その先には人混みが。
あれでは、猛スピードの車が人の列に突っ込むようなものだ!
「危ない!!」
悲鳴の中、僕は佐山さんと人々の間に入るが、凄まじい衝撃に襲われる。
「も、物凄いパワーだ……」
新型のブレイブアーマーだったからこそ、突進を受け止められたが、少しでも油断したら弾き飛ばされてしまいそうだ。
「この野郎!!」
何とか強引な前進をいなし、佐山さんの腹部を蹴り付ける。プラーナを込めた一撃は、ノームド化した体も軽々と吹き飛ばしたが……建造物に背を打ち付けた彼は、何事なかったように立ち上がった。
「クソ、びくともしてないぞ……」
「あれは、暴走寸前のノームドです!」
後ろに立つセレーナ様が指示を出す。
「私は市民の市民が終わるまで、守りに徹します。神崎くん、目標の制圧を!」
「了解です!」
さらに、フィオナからも指示があった。
『誠、周辺とノームドの予想進路にいる住民を避難させるまでの間、そいつを何とか抑え込んで!』
「任せろ!って言いたいところだけど……なるべく早く頼んだよ」
『すぐ自由に戦える環境にしてあげる。だから、そっちこそしくじらないでよ』
「こっちだってアッシアで強敵たち戦ってきたんだ。……やってやるさ!」
と言いながら、頭の中でどこか冷静な僕が、僕に囁く。お前、それらしいこと言っているけど、勇者っぽく決めてやろうとか思って、調子に乗るんじゃないぞ、と。
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