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【勧められたら必ず】

セレーナ様は顔を赤らめ、意外なことを言うのだった。


「あの、犬神家……見ていただけたでしょうか??」


「はい??」


「その、神崎くん……言いましたよね? 犬神家シリーズ、全部見て感想を語り合ってくれるって!!」


呆然としている僕に気付いたのか、セレーナ様の顔は真っ赤になってしまう。肌が白いせいで、その赤さは余計に目立っていた。


「ご、ごめんなさい。見ているわけがないですよね。社交辞令と言うか、話を合わせたというか、その、見る気があったとしても昨日の今日で時間なんてないし。それなのに、早とちりでスクールにまで押しかけて大騒ぎして……私、気持ち悪いですよね」


「いえ、見ました」


「で、ですよね。本当ごめんなさい。アニメや漫画の話になると、つい興奮してしまって。どうかお許しください。反省の証として、今日一日はSNSの投稿は控えますので。……って、今何と仰いました??」


「だから、見ましたよ。犬神家」


「……本当に??」


目が点になっているセレーナ様に、僕は拳に握りしめ、もう一度言う。


「ええ、見ましたとも。昨日、帰ったら早速……徹夜で!!」


「ど、ど、ど……」


あまりに意外だったのか、セレーナ様の目がぐるぐると回っているみたいだった。


「どこから、どこまで、見たんですか??」


「それはもう、狛編の第一話から最終話まで見ましたよ! 今日帰ったら、支隊編を見るつもりだったのですが、順番的に当たってます? 番外編の方が先ですか??」


「え? あ?? えーっと、そうですね。番外編を先に見た方がより楽しめるというか……。でも神崎くん、どうして見てくれたんですか?」


「約束したじゃないですか。それに、僕もアニメとか漫画とか好きなので」


「そうは言っても……」


昨日、家に帰ってくたくただったが、フィオナに犬神家が見れる動画配信サービスを契約してもらい、徹夜で見続けたのである。しかも……。


「しかも、セレーナ様の考察動画も見ました」


「えええ??」


「素晴らしかったです。あんな視点から物語を見ているなんて! 特に最終回で出てきた犬神月に関する考察は、まさにそれが正解じゃないかって思えるような内容で……。その辺、続編で語られるのでしょうか??」


「そう、そうなんですよ! だから、新作は目が離せなくてですね!」


そこから、僕とセレーナ様は病院の屋上で延々とアニメの話を続けた。すっかり、辺りは暗くなり、病院の人から「面会時間はとっくに過ぎているので出て行ってください」と怒られるまで。


「あの、まさか……こんなにしっかりと見てもらえるなんて思いもしませんでした。迷惑なことを行ってしまったと、ずっと後悔していたんです」


「何を言っているんですか。こんな素晴らしい作品を教えてもらえたなんて、僕は幸せですよ」


「ほ、本当ですか?」


「はい。他にもお勧めがあれば教えてほしいくらいです」


すると、セレーナ様の目がキラキラと光り出す。


「あの、では……ぜひ読んで欲しい小説があるんです。BLなんですが……二人の男性が学生時代に出会ってからの五十代を描くといった内容で。あ、でも、そういう要素よりも人生や愛に関する文学的な描写が評価されて人気になった作品なんです。タイトルも『恋の証明』っていうストレートな感じで!!」


「ふっ、セレーナ様。僕を舐めないでいただきたい。面白い作品ならば、BLだって恐れをなすことはありませんよ。それ、電子書籍で読めるんですか??」


「もちろんです!」


そこから、再び話しは盛り上がってしまったのだが、ふとした瞬間にセレーナ様が安心したような微笑みを見せた。


「なんだか、嘘みたいです。ネットの仲間以外の人が、こんなに私のお勧めに興味を持ってくださるなんて」


「何を言うんですか。セレーナ様にお勧めしてもらったものを全部見たわけではありませんが、あの考察動画を見る限り、そのセンスと情熱は確かなものでした。だから、何もネットの仲間だけじゃなくて……」


そう僕が言いかけたとき、懐にあるスマホが激しく着信音を発し始めた。


「……あれ、フィオナから?」


そうだ、夕飯の約束をしていたのだった。怒らせてしまっただろうか、と焦っていると……。


「司教様からの電話が……?」


セレーナ様の方にも、偉い人から連絡があったようだった。

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