【聖女様がしつこくて】
「ここまできたら大丈夫でしょう」
セレーナ様は一息吐くが、少しもバテた様子はない。戦争で走り回り、連戦していた僕ですら息が切れているのに。
「あ、見てください。もうネットニュースに上がってますよ」
セレーナ様がスマホの画面を見せてくるが、そこには『大聖女セレーナ・アルマが、アミレーンの街で学生と逃避行!?』というタイトルのネット記事が表示されていた。
「だ、大丈夫なんですか? こんな大事になってしまって」
「全然平気ですよ。男の人と一緒にいると、必ずニュースになってしまうので、私もファンも慣れてしまいましたから」
「そういうものですか……」
考えられない世界だな。ずっと誰かの視線を気にしながら生きるってことじゃないか。
……待てよ。このニュース、フィオナかハナちゃんに見られたら、僕の方がまずいんじゃないか??
「それにしても、楽しかったですねー」
しかし、セレーナ様の方は少しも気にした様子はない。
「ファンと追いかけっこ。今度、動画の企画にしたら再生数回るんじゃないかな、って少しだけ考えちゃいました」
純粋な笑顔を見せるセレーナ様。たぶん、彼女は何でも楽しめるタイプの人間なのだろう。
「それなら『街に変装した聖女降臨!ファンにバレたら即企画終了』みたいな動画もいいんじゃないですか?」
僕はもとの世界でなんとなく見た動画のタイトルをセレーナ様向けにして提案しただけだったのだが……。
「ほうほう」
彼女の目の光が何だか強くなったような気がする。
「良いかもしれないですね。他には何かありますか?」
「えええ? あとは、そうだなぁ……。『熱烈なファンの前に大聖女降臨!リアクションに全員爆笑からまさかの展開に』みたいなのはどうですか??」
「……素晴らしいじゃないですか」
セレーナ様が僕の手を取る。
「神崎くん、意外にアイディアマンなのですね。よかったら、うちの動画チームのアドバイザーになってもらえませんか?」
「いやいや、僕はただ……自分の世界で見た動画企画を口にしているだけですから」
「自分の世界??」
「いや! だから、うちの田舎というか……」
「出身はどこなのですか?? そんなアイディアがいっぱいある田舎なら、ぜひ行ってみたいです! それだけでも、動画になりそう」
なんでも動画にするんじゃない!!
しかし、セレーナ様はどんどん僕に詰め寄り、アイディアを引き出そうとしてくる。それより……顔が近くて頭がおかしくなりそうなんだけど!!
「あっ、そうだ!」
僕は素早くセレーナ様から離れる。これ以上、身元について追及されるわけにはいかないのだ。
「ハナちゃんのお見舞いに行かないと! 僕もう行きますね。じゃあ、セレーナ様、動画頑張ってください。変身!!」
「あ、待ってください!」
先程のセレーナ様に倣って、僕はブレイブアーマーを装着し、長距離ジャンプで逃げ出すのだった。
「これで安心……」
僕はオクト大学病院の屋上に降り立ち、変身を解除する。
「えっと、ハナちゃんの病室は……」
昨日の夜、お見舞いの約束をして、教えてもらった部屋番号を確認する。病室をのぞくと、大部屋にハナちゃんの姿が。退屈そうにスマホをいじっている。
「ハナちゃん、きたよー!」
顔を出すと、ハナちゃんは驚いたのか、ビクッと肩を震わせてから、僕の方を見た。そして、目が合うとみるみると顔が真っ赤に。
「ば、馬鹿! いきなりくるやつがいるか!!」
といって、近くにあった雑誌を投げつけてくる。しかし、僕も勇者だ。それくらいは軽くキャッチしてみせる。
「いや、トラブルがあってスクールは途中で抜け出してきたんだよ」
「いいから、一度外に出てろ!」
何を怒っているんだ??
一度、病室の外に出たが、他の患者さんの声が漏れてきた。
「あらあら、カレシさんかい?」
「必死に鏡見ちゃって」
「そこ、寝癖あるよ? 直してやろうかい?」
お、おおお……。
僕、ハナちゃんのカレシだと思われているぞ!?
しかも、ハナちゃんも否定してないし!!
スマホに「入っていいよ」とメッセージが入ったので、改めて病室へ。
「ハナちゃん、調子はどう?」
「綿谷華、あのとき以来ですね。しっかり治療できず、申し訳ございませんでした」
「「えっ?」」
僕とハナちゃんの声が重なる。振り返ると、そこには……。
「せ、セレーナ様??」
大聖女様がニコニコと笑っていた。
……まずい。まずいぞ。
この人だけは、ハナちゃんに近付けちゃダメなのに!!
「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。
「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!




