【大聖女降臨】
セレーナ様は昨日と違って黒い法衣姿ではなく、落ち着いた私服姿で、僕を見付けると笑顔で手を振る。おいおい、目立つような動作をやめてくれ!
「何しているんですか!!」
僕はセレーナ様の手を握り、強引に下げさせた。
「あの、これでも私、大聖女なんです。このように、男性から情熱的に触れられてしまうと……」
「す、すみません。でもね」
僕は手を引っ込めながら説明する。
「セレーナ様は有名人なんですよね? そんな人が昼間っからスクールにきたら、どうなるか想像できるでしょ??」
「しかし、神崎くんに聞きたいことがありまして……」
聞きたいこと?
聖女様が僕なんかに、何を聞きたいんだ??
「おい、あれ!!」
それを確認する前に、恐れていたことが早くも起こってしまった。
「セレーナ様じゃないか??」
校舎の方から、生徒の声が。
「そんなわけねぇだろ……。いや、あの神々しいお姿は!?」
「嘘でしょ!? 私、オクスタもYもフォローしてるんだけど」
「って言うか、隣にいるの勇者の神崎じゃないか!?」
だ、ダメだ。騒ぎが少しずつ大きくなっている。ついには、玄関から出てきた生徒たちが、波のように押し寄せてきた。
「セレーナ様、こっち!」
「あっ、ですから男性に触れられるのは……!!」
この状況、そうも言ってられまい。僕はセレーナ様の手を引っ張り、アミレーンの街を走るのだが……。
「あははっ! 何だか楽しいですね!」
意外にもセレーナ様は活発な聖女らしく、笑顔で駆けている。
「いやいや、このままじゃあ皆にもみくちゃにされちゃいますよ!?」
どれくらいの生徒たちが僕らを追いかけているのか、と背後を確認してみると、百人はくだらないだろう人の波が。しかも、いつの間にかスクール以外の人たちも混じっているではないか。
「セレーナちゃーーーん!」
「大聖女様!」
「写真だけでも!!」
恐るべし、セレーナ様の人気っぷり。でも、この状態が続いたらアミレーン全体がパニックになってしまうぞ??
「もう! なんで僕なんかに会いに来るんですか! 聞きたいことがあるんだったら、フィオナに確認すればよかったじゃないですか!」
「聞きましたよ! 神崎くんの連絡先を教えて欲しいって。そしたら、聞きたいことがあるなら、私を通せば十分だって言うから……」
フィオナの言う通りじゃないか。
「だからって、直接会いに来なくてもいいでしょう!」
「だって、神崎くんはSNSやってないようですし、どこに住んでるかも分からないので、スクールなら会えるかなって」
「せめて、変装してきてくださいよ。帽子とかサングラスとか!!」
「ああ、確かにそうですね。次はそうします」
次があるのか??
こんなパニック、一回だけにしてほしいんだけど!
「しかし、これ以上、騒ぎになるのはまずいですね。一度、しっかり撒きましょう」
「撒くって、どうやって??」
すると、セレーナ様はどこからかブレイブシフトを取り出し、聖女らしからぬ悪戯な笑みを浮かべた。
「勇者の特権、使ってしまいましょう。ブレイブチェンジ!」
銀の光がセレーナ様を覆ったかと思うと、ひょいっと僕の体が浮き上がった。ブレイブアーマーを装着したセレーナ様が、僕を抱えたのだ。
「聖女ジャーーーンプ!!」
そして、間抜けな掛け声と共に飛び上がると、横手にあった建物の屋上に着地した。
「これで大丈夫です」
とセレーナ様は変身を解除して微笑むが……。
「皆の前で女の人に抱えられて……何か恥ずかしかったんですけど」
セレーナ様は僕の呟きの意味が理解できなかったのか、首を傾げたが、それよりも下の声援の方が気になったらしく、地上を見下ろした。
「聖女様!」「サインください!!」「Okutube見てますー!!」
そんな声に、彼女は手を振って応える。
「ありがとうございまーーーす! 今夜も生配信するので見に来てください! それから、来週はリアルイベントもやるので! チケットも若干残っていますから!」
そんなファンサービスを終えると、セレーナ様は僕の方に振り返り、手を差し出した。
「さぁ、神崎くん。行きましょう」
「え? あ、はい」
男に触られるのはダメだったのでは?
しかし、彼女は僕の手を引っ張り、ファンの声援に背を向けるのだった。
それから、建物の屋根から屋根へ飛び乗り、移動したのだが……
なんだかこれって、超人気アイドルと恋に落ちた平凡な男のラブコメ漫画みたいじゃない??
実際、楽しそうに笑うセレーナ様の笑顔は、大聖女と言うよりは純粋な少女のもので、本当に可愛らしいものだった。
「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。
「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!




