【若者のカリスマ】
お昼に教室へ行くと、またクラスの皆に囲まれてしまった。
「昨日、フィオナ様が迎えにきてなかった??」
「どんな関係なの!?」
「何か秘密の任務があったの??」
そんな質問を何とか振り払い、自分の席に座ると、雨宮くんが声をかけてくれた。
「眠たそうだけど、本当に何かあったの?」
「うん。ここだけの話しなんだけど」
僕は声を潜める。
「セレーナ様と一緒に仕事だったんだ」
雨宮くんなら「へぇ、大変だったんだね」で終わるかと思ったのだが……。
「……神崎くん。セレーナ様って、大聖女セレーナ・アルマ様のこと??」
気のせいか、声が震えているような。
「う、うん。そうだけど」
「な、な、な……」
「ん??」
「なんで黙っていたのさーーー!!」
「うわぁ、びっくりしたーーー!!」
「セレーナ様と言ったら、このアミレーンスクール出身の勇者じゃないか! 君は彼女がどれだけ凄い勇者なのか分かっているの!?」
「ちょ、落ち着いて!!」
僕は雨宮くんの口を手の平で塞ぐ。もごもごと何かを訴えようとする雨宮くんだったが、次第に冷静さを取り戻したようだった。
「ごめん、伝説の勇者の名前が出てきたから、つい興奮しちゃった」
忘れていたが、雨宮くんは勇者マニアだったのだ。しかし……。
「あのセレーナ様が、そんなに凄い勇者だったの?」
再び雨宮くんの目つきが変わりそうになったが……。
「ひっ、ひっ、ふぅ……」
と、彼は独特な呼吸で興奮を抑え込んだ。そして、メガネをキラッと光らせてから、人差し指を立てる。
「セレーナ様と言えば、その豪快なバトルスタイルと圧倒的な強さで、物凄い人気の勇者だったんだから。唯一の対抗馬だった綿谷先輩も、いざ直接対決してみると、セレーナ様が圧勝したんだよ?」
「は、ハナちゃんを相手に……??」
し、信じられねぇ。
いや、でも、そういうことか。
ワクソーム城の決戦で、ハナちゃんが拗ねていたのは、セレーナ様に助けてもらったからだった。あの負けず嫌いのハナちゃんのことだ。負けた相手に助けられたのは、かなり悔しかったのだろう。
「ほら、これが対戦動画だよ。オクトのスクール勇者決定戦の中でも、屈指の名勝負だって有名なんだから」
雨宮くんが動画を見せてくれる。
セレーナ様とハナちゃんがケージの中で、向き合っているところから始まるが、対戦内容はとんでもないものだった。セレーナ様の豪快な打撃を嫌がったハナちゃんは得意の寝技に持ち込む。
しかし、ハナちゃんの関節技を強引に抜いて、セレーナ様は暴力的な打撃を繰り出す。何度もハナちゃんは寝技にトライするが、どれもパワーでねじ伏せられてしまうのだった。
結果は判定でセレーナ様。泣きながら退場するハナちゃんの姿は見ていられなかった。
「凄いでしょ? 打撃が得意な生徒も、寝技が得意な生徒も、セレーナ様の前ではこんな感じで叩き潰されちゃうんだ。しかも、彼女の本職は聖職者。だから、未だに最強の女勇者はセレーナ様っていう説があるんだよ」
「さすがに、今やったらハナちゃんが勝つよね? これ、一年前の動画みたいだし」
「うーん……」
雨宮くんは答えを出さず、別の話題に移る。
「それに、セレーナ様が人気なところは、インフルエンサーとしても成功しているところだよ。Okutubeでは100万再生超えの動画を連発するし、Y(旧:okutter)もフォロワー50万人越えで、若者のカリスマとも言える存在だね」
「……雨宮くん。もしなんだけど、そんな聖女様がアミレーンスクールにやってきたら、どうなるの?」
「え? そうだねぇ、あり得ないことだと思うけど、大混乱になるんじゃない? 全生徒がセレーナ様の姿を一目見るために、暴徒みたいになるんじゃないかな」
「だよね。……もぉ、あの人は何しにきたんだ!?」
「ちょ、神崎くん!?」
僕は席を立ち、事態を把握していない雨宮くんに何も説明せず、教室を飛び出して、校門の方へ向かった。さっき、教室の窓から何気なく校門の方へ視線を向けたとき、僕は見てしまったのだ。
なぜかご機嫌そうにニコニコしながらアミレーンスクールに入ってくるセレーナ様の姿を。
「有名人がこんなところに来ちゃダメだろ!!」
しかし、僕が駆け付けたところで、混乱を収められるだろうか。いや、混乱になる前に、何とか彼女を追い払わなくては……!!
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