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【後輩の相談】

次の日、僕は眠気眼でスクールへ向かった。できるなら、朝の授業から出たかったが、昨日の疲労があって起きれず、もうお昼前だ。授業中のため、校舎は静かで廊下を歩く人の姿はない。そんな中でも、ふと中庭を見ると……。


「あれ、芹奈ちゃん?」


黒髪にショートボブの女の子。僕にとって唯一の後輩と呼べる女の子が、ベンチに座ってサボっているのだった。


「芹奈ちゃん、何しているの?」


「ひゃあ!!」


声をかけると、芹奈ちゃんは肩を震わせて驚いた。


「せ、先輩……。どうしてこんなところに?」


「午前中、サボっちゃって今来たところなんだ。芹奈ちゃんもサボり?」


「……はい」


芹奈ちゃんは目を伏せるが、サボったことに対する罪悪感……とは少し違うような気がした。


「もしかして、何か悩み事?」


聞いてみると、俯いてしまう。やっぱり、何かあるみたいだ。


「僕みたいなものでよければ、聞くけど」


「いえ、そんな。でも、あの……」


芹奈ちゃんは重たい悩みを抱えているのか、なかなか口を開こうとはしなかったが、こんな質問を投げかけてくるのだった。


「先輩には尊敬する人は……いますか?」


「尊敬する人?」


それは……たくさんいるよなぁ。師匠である三枝木さんはもちろん、ハナちゃんもフィオナも、皇だって尊敬している。


「たくさんいるよ」


即答すると、芹奈ちゃんは続けて質問を投げかけてくる。


「じゃあ、好きな人はいますか?」


「えっ」


意外な質問で、さっきと違って即答できなかった。ここは「たくさんいるよ」って、答えにくいよな……。そんな僕の動揺に気付かず、芹奈ちゃんは悩みを打ち明けてくれた。


「私は尊敬していて、大好きな人がいるんです。でも、その人が間違っていることをしているかもしれない、って……最近、気付いてしまって」


尊敬していて、大好きな人か。それは、かなり特別な人なんだろう。


「先輩は、そんな人が悪いことをしていたら、どうしますか?」


シンプルな質問だ。だが、ゆえに難しいと言うか……。


「悪いことの程度にもよるけど、注意するのかなぁ」


「……やっぱり、先輩はそうですよね。ヒーローみたいな人ですもの」


ぼ、僕がヒーロー??

それにしては頼りない気がするけど……。


「私も、できることなら止めたいって思うんです。だけど、勇気がなくて」


「勇気かぁ。確かに、難しいよね」


軽く答えてしまったけれど、実際に芹奈ちゃんが言ったシチュエーションに陥ったら、僕も止められるか怪しいかもしれない。誰かが悪いことに手を染めてしまったとしても、きっと理由がある。それを簡単に否定できるだろうか。


「でも……その人のことを本当に想っているとしたら、やっぱり止めるかな」


「本当に想っているなら?」


「うん。だってさ、悪いことをしたらいつか後悔すると思うんだよね、たぶん。後悔って簡単に消えるものじゃないし、その後の人生が楽しくなくなっちゃうかもしれない。だったら、大切な人が、そうならないよう、何か事情があっても止めるかなぁ」


芹奈ちゃんは僕の言葉を頭の中で反芻してくれているのか、地面を見たまま黙り込んでしまう。


「……私には、できないかもしれません」


「まぁ、僕も実際できるか、分からないけど」


「先輩なら、できますよ」


「そうかなぁ。何度も死ぬかもしれないって思うくらいの戦いを乗り越えてきたけど、今でも尻込みすることの方が多いから。根が臆病なんだよね」


自虐的に笑ってみせると、芹奈ちゃんも笑顔を見せてくれたが、捉えどころのない翳りは消えなかった。そして、芹奈ちゃんは言う。


「でも、やっぱり先輩はできると思います。だから、もし……」


「もし?」


「もし、私がフォールダウン現象で、ノームドになったら、先輩が止めてくださいね?」


「芹奈ちゃんがノームドに? そこまで気を病む前に相談して欲しいよ」


「分かりました。でも、万が一そうなっても、先輩が止めてくれる。そう思えたら、私も頑張れるかもしれません」


「うーん……分かった。じゃあ、約束。でも、何かあったら相談してくれるってことも、約束してね!」


「……はい!」


芹奈ちゃんが笑顔で返事をしたところで、お昼のチャイムが鳴ってしまった。少しでも授業に出たいと思っていたけれど……。


「ありがとうございます、先輩!」


この笑顔を見せられたら、仕方がないかなぁ。

こちらは次章の伏線と言うか前振りと言うことで……。


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