【こっちもポンコツ聖女か】
「ちょっとセレーナ様、どうするんですか!? 佐山さんが逃げちゃいましたよ!」
掴みかかりそうな勢いの僕だったが、セレーナ様は冷静に返す。
「お叱りは後で! 今は追いましょう!!」
確かに、話しは後だ。僕は怒りを抑え込みながら、走り出したのだが、出遅れてしまったせいで、路地を曲がられてしまい、佐山さんの背中を見失ってしまうのだった。
「藤原さん。今の方は佐山さんで間違いありませんか?」
「はい。目が合いました。間違いありません」
藤原さんが肩を落とす。逃げる佐山さんを見て、友人が悪に手を染めてしまったことを認めなければならないのだから、気持ちも落ち込むだろう。佐山さんが消えた方を見つめ、セレーナ様は言う。
「アミレーンは厳しく包囲されているため、外に出ることは難しいはずです。別の場所に隠れていると思われますが、心当たりはありますか?」
「はい。あと何か所か……」
「お気持ちは察しますが、時間がありません。どうか、案内をお願いします」
セレーナ様の言葉に頷く藤原さんだけど……。
「あのですね」
僕はまだ怒りが収まっていなかった。
「藤原さんに案内してもらうのは仕方ないですけど、セレーナ様が配信を始めなければ、穏便に佐山さんを保護できたかもしれないんですよ? それなのに、急に配信なんて始めちゃって。どういうことなんですか?」
詰め寄る僕に、彼女はしっかりと頭を下げる。
「ご、ごめんなさい。仕事を優先すべきだと分かっていたのですが、体が勝手に……!!」
体が勝手に、って……ネット中毒みたいなものじゃないか。この人、本当に大丈夫なのか?
「本当に申し訳ございません。毎日配信の時間は終わったので、ここからは仕事に集中します。神崎くんの信頼を取り戻すためにも、全力を尽くしますので!!」
ペコペコと何度も頭を下げる聖女様。さっきまでは優等生キャラだとばかり思っていたのに……この人、けっこうなポンコツ聖女なのかもしれない。
だとしたら、足手まといを抱えた上で藤原さんを守りながら、佐山さんを追うことになる。これ、思ったよりハードなミッションじゃないか。どうすりゃいいのさ、これ……。
「まぁまぁ。その辺にしておきましょう」
藤原さんが割って入る。
「神崎くん、君の意見は正しいが、セレーナ様の立場もある。この任務を成功させるためには、二人の連携が大切だ。君の方も歩み寄らないと」
くっ……なんだよ。あんたみたいな爽やかイケメンに、それらしいことを言われたら、気持ちを収めるしかないじゃないか。
「藤原さんがそこまで言うなら……」
引き下がる僕に、藤原さんが笑顔を見せる。
「ありがとう。君のように大きな成果を上げた勇者なら、余裕をもって任務に挑んでも、きっと問題ないはずだ。ねっ、セレーナ様」
「はい! 本当に申し訳ないです。ここから、ちゃんとやりますので!」
本当に藤原さんは良い人だ。でも、こういうイケメンで良い人がいるから、僕みたいなタイプは余計に居場所がなくなるってことも分かって欲しいよな。やっぱり……苦手だぜ、藤原さん。
「では、次の候補地に行きましょう」
藤原さんが小さく手を叩き、空気を変えてくれたので、僕たちは再び任務に戻ることになったのだが……。
「囲まれていますね」
突然、セレーナ様が言った。そして、藤原さんが同意するように頷く。囲まれている、って……誰に??
「少しずつ距離を縮めてくる。十秒後には接触してくるでしょう」
セレーナ様の言う通り、十秒ほどすると、黒い服に身を包んだ連中に僕たちは囲まれてしまった。正面に三人。後ろも三人。左右に二人ずつ。……やばいぞ。藤原さんとポンコツ聖女を守りながら、十人も相手にできるのか??
「何者ですか、と聞いても……無駄なのでしょうね」
しかし、セレーナ様が一歩前に出る。
「な、何をしているんですか。危ないから、下がっていてください!」
セレーナ様よりも、さらに一歩前へ出ようとする僕だったが、彼女がそれを止めた。
「神崎くん、ここは見ていてください」
「見ていてください、って。護衛は僕の役目なんですから!」
「いえ、貴方の役目は彼の護衛です。私を守ることは、任務に含まれていません」
彼、とは藤原さんのことなのだろうが……そう言われてみると、フィオナからセレーナ様を守るよう、命令されてなかった、かも?
「それに」
と大聖女様は慈愛と使命感に溢れた微笑みを見せて言った。
「貴方の信頼を取り戻すためにも、ここは私にやらせてください」
セレーナ様は僕たちを包囲する連中を見渡し、宣言する。
「私の歩みを止めることは、すなわち女神セレッソの導きを否定することです。女神の意に背く覚悟があるのなら、前へ出なさい」
敵がじりっと前進する。そりゃそうだよな。誰もあんな女神の言うことを聞くわけないんだから……。しかし、セレーナ様は呆れるように溜め息を吐いた後、凛々しい表情で彼らに言い放つ。
「では、女神の意思を貴方たちに伝えましょう。その痛みを持って、女神の慈悲を知りなさい」
そして、セレーナ様は左手を横に伸ばすと、その腕を右手で握り、その言葉を口にした。
「ブレイブチェンジ」
……な、なんだって!?
大聖女様から放たれる銀色の光に包まれながら、僕は驚愕するのだった。
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・ポンコツ聖女は急成長するショタ王子の要求を断れない!
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※本作とは関係はありません。




