【いつかは想い出に】
ヘリコプターはアミレーンスクールの校庭に僕たちを降ろすと、すぐに飛び立ってしまった。
「アミレーンスクールの校舎。とても懐かしいです」
校舎を見て、そう呟いたのはセレーナ様だった。
「セレーナ様もアミレーンスクールの出身なんですか??」
「あ、いえ……。私は少しだけ編入という形で在籍した期間があっただけで……。本当の卒業生である藤原さんや現役の学生である神崎くんの前で懐かしむのは、おかしかったかもしれませんね」
なぜか照れ笑いを浮かべるセレーナ様。アミレーンスクールに恥ずかしい想い出でもあるのだろうか。
「それにしても、どうしてアミレーンスクールに降りたんですか? まさか、犯人が隠れている、とか?」
僕が藤原さんに聞くと、彼は首を横に振り、横からセレーナ様が教えてくれた。
「目的地に直接向かいたいところですが、ヘリの移動は封印機関に監視されていたかもしれないので、ここから徒歩で移動します」
「そうなんですね。てっきり犯人は……」
「神崎くん」
僕の言葉を藤原さんが遮った。
「気持ちは分かるが、彼のことを犯人と呼ばないで欲しい。君の立場からしてみると、犯人という位置づけで間違いないだろうが、彼は僕の友人なんだ。せめて、僕の前だけは佐山と呼んでやってくれ」
「あ、あああ!! そうですよね、何も考えずに発言して、すみません!!」
「こちらの方こそ、無駄な配慮を押し付けて申し訳ないと思っている。でも、僕の方も突然のことで驚いていて、少しナーバスになっているんだ。……神崎くん、佐山のことを頼んだよ」
「……はい。できる限りのことやってみます」
そうだった。友達のことを犯罪者呼ばわりされたら、気分悪いよなぁ。やっぱり、藤原さんは人格者なんだろうな、と改めて思わされる半面、その正しさに窮屈さを感じてしまう。
ああ、僕って嫌な人間だな。藤原さんが近くにいると、何度もそう思わされてしまいそうだ。
「では、藤原さん」
セレーナ様が場を仕切る。
「佐山さんが隠れているだろう場所に案内してください」
「分かりました。心当たりはいくつかありますが……まずはこちらです」
僕たちは、まずアミレーンスクールを離れ、静まり返った住宅街を歩いた。無言の時間が続き、何だか居心地が悪かったが、街灯に照らされたセレーナ様を見て、つい息をのんでしまう。
横顔から見ても、彼女が持つ気品のようなモノが感じられる。何て言うか、自然と学級委員長に選ばれてしまうタイプなのではないか。
「神崎くん」
視線に気付いていたのだろうか。セレーナ様に名を呼ばれ、びくっと体を震わせてしまう。彼女は言う。
「いつどこに何者から襲撃を受けるか分かりません。周囲の警戒を怠らないでくださいね」
「は、はい!」
勢いよく返事したものの周囲の警戒って、どうやってやるんだ?
漫画とかでよく見る、敵の接近を気配だけで察知するアレだよな?
中学生のときに何度も練習したけど、一度も成功したことないよ??
「今はどこに向かっているのでしょうか?」
そんな委員長の質問に、藤原さんは答えた。
「僕と佐山がスクール時代に通っていたクラムです。学生のころ、どっちが先に暫定勇者になれるか競い合っていたのが、まるで昨日のように思い出されます」
「この辺にクラムってあったんですか?? 気付かなかったなぁ」
別にアミレーンの隅から隅まで知ったつもりになっていたわけではないけど、基礎体力をつけるために、この辺りは走り回っている。クラムがあれば目についたと思うけど……。
「いや、もうクラムはないんだ」
「ない?」
藤原さんは寂し気に言う。
「僕と佐山が抜けた後、暫定勇者を輩出できなかったらしくてね。新規の会員も獲得できず、少し前に潰れてしまったらしい。アトラ隕石の影響でオクトの経済は不安定だから。ちょっとでも経営が傾いてしまうと、すぐに廃業になってしまうのさ。きっと、今はテナント募集の状態か、内装工事が始まっているかもね」
「そう、なんですね」
不景気、ってやつか。
そういえば、まだ挨拶に行けていないけど、三枝木さんのところは大丈夫かな。あそこは、僕にしてみるとハナちゃんと一緒に練習した場所でもあるし、きっと何年かしたら想い出の場所になるだろう。それが潰れたりしてしまったら、落ち込むよなぁ。
そこから、また数分の間は黙って移動したが、セレーナ様は何度もスマホを取り出しては時間を気にしているみたいだった。何か予定があるのだろうか、と声をかけようとしたが、藤原さんが正面に向かって指をさす。
「あれです。あの建物が僕らが通っていたクラムです」
それは、コンビニより一回り大きいくらいの広さがある、二階建ての建物だった。
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