【つまり今回の任務は】
あー、ギル様怖かった、と僕が溜め息を吐くと同時に、フィオナが立ち上がった。
「セレーナ、見た?」
「はい」
何の話だろうか。二人とも、ピリピリしているようだ。
「やっぱり、あの女……リザ・カモフ・シェフチェンコだったわよね?」
「間違いありません。残虐淑女の名の通り、凄まじい殺気の持ち主でした」
……ん? なんの話し?
「えーっと、二人とも誰の話をしているの?」
何気なく聞いたつもりが、二人が驚いた顔で僕を見た。
「神崎くん、何も感じなかったのですか?」
「あんたって、本当に集中していないと普通以下の男子って感じよね」
普通以下ってなんだよ。まぁ、否定できないけど……。
だとしたら、もしかしてセレーナ様をがっかりさせちゃったかなぁ。しょんぼりする僕を見て、何を思ったのかフィオナが説明してくれた。
「お兄様の後ろに、無表情の女がいたでしょ? あれが禁断術封印機関、封印執行室の副室長、リザ・カモフ・シェフチェンコ。残虐淑女の通称で知られ、封印技術を扱う人間からしてみると、その名を聞いただけで震えが止まらなくなるような化け物よ」
さっきの、あの人が?
残虐淑女?
そんなことないだろ。どちらかと言うと、図書館司書とかやってそうな雰囲気だったのに。
「とにかく」
フィオナが手を叩く。
「お兄様はもう動き出している。こっちも動かないと、アヤメの心臓が回収され、教会は責任を追及されることになってしまうわ」
「そうですね。さっそく私たちもアミレーンへ向かいましょう」
と言うわけで、僕たちはヘリコプターに乗り込むことになったのだが……。
「その前に、彼を紹介しておくわ」
フィオナの言葉を合図に、ヘリコプターの影から、一人の男性が現れた。歳は二十代半ばだろうか。爽やかな笑顔が印象的で、年下の僕に対しても丁寧に頭を下げてきた。
なんだろう。もとの世界の価値観で例えるとしたら、顔がかっこいいのにサッカー部のキャプテンをやっていて、女の子はもちろん、不良からオタクまで、誰もが親しみを持ってしまうタイプの男性だ。
つまりは一番モテるタイプってこと。なんか……苦手なんだよな、こういう人。
「彼は藤原芳樹」
フィオナは紹介する。
「かつて、アミレーンスクールでランキング戦を制覇し、勇者の座を獲得した経験もあります。つまりは誠にとっては同じスクールの先輩ということになりますが、今回は協力者と言う立場です」
「は、はじめまして」
僕が頭を下げると、藤原さんは眩しい笑顔で挨拶を返してくれた。
「藤原です。同じアミレーンの勇者を手伝えるなんて、とても嬉しく思います」
藤原さんが左手を差し出してきたので、握手を交わす。悪い人ではないのだろうけど、何となく握手している時間が苦痛でしかたなかった。
「あの、神崎です。僕も先輩勇者の人と一緒に戦えて光栄です」
でも、ベテランの勇者が手伝ってくれるなら怖いものなしじゃないか、と思ったのだが、藤原さんはどこか遠慮がちな笑顔を見せる。
「すまないが、今回はあくまでサポート。いや、むしろ守ってもらう立場になってしまうかもしれないんだ」
「どうしてですか?」
何も知らない僕に、藤原さんは右腕を見せてくれた。
「これって……」
藤原さんの右腕はどう見ても無機質で、自由に動くものではない。驚く僕に彼は頷く。
「うん。義手だ。この前の戦争でね、失ってしまったんだ」
何を言えばいいのか分からず、中途半端な表情で固まってしまったのだが、藤原さんは笑顔で僕の肩を叩いた。
「だから、君の活躍に期待している。頼んだよ!」
「わ、分かりました……!!」
戦えないなら、藤原さんはなぜ同行するのだろうか、という疑問が浮かぶと同時に、フィオナが説明してくれた。
「彼は、逃走中である佐山の友人です。どこに佐山が潜伏しているのか、案内してもらうと同時に、説得を試みてもらうためにも、彼に同行してもらいます。つまり、今回の貴方の任務は」
とフィオナは僕を見る。
「大聖女セレーナと封印指定のアヤメの心臓を捜索。同時に重要参考人の護衛となります。気を付けてね」
僕は頷き、セレーナ様と藤原さんと一緒にヘリコプターへ乗り込み、オクト城から飛び立つ。セレーナ様は窓から夕日に染まるオクトの街を見下ろし、藤原さんは僕の方を見ては何度か首を傾げていた。どうしたのだろう、と僕も首を傾げかけたが、藤原さんは何に引っかかっていたのか、理解したようだった。
「君、もしかして……神崎誠くん? あの、セルゲイ・アルバロノドフを倒したって噂の!」
「えっ? あ、はい。まぁ、倒したと言えるか、分かりませんけど……」
「そうか。若いのに、凄い成果を上げたんだね。凄いなぁ、立派だよ」
爽やかな笑顔で褒めてくれる藤原さんに、僕はどんな反応をすればいいのか分からず、ただ笑っていたが、何となくセレーナ様がどんな顔をしているのか気になって、つい彼女の方を見てしまう。
でも……興味がないのか、彼女の視線は窓の外に向けられたままだった。
「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。
「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!




