【探りを入れるお義兄様】
フィオナの話を聞いて、これからシビアな戦いが始まるのだ、と理解する。しかし、セレーナ様の前で尻込みする姿は見せられない、と何とか表情を変えずにいると、扉がノックされた。
「何か?」
フィオナが呼び込むと、秘書官らしい女性が入ってきた。緊張感のある表情でフィオナに近付くと、何やら耳打ちして、すぐに部屋を出て行ってしまう。
「二人とも、今からお兄様がここにくるわ。たぶん、アヤメの心臓のことで探りを入れに来たのよ。私が対応するから、二人は話を合わせて」
「お、お兄様ってもしかして……ギル様??」
「他に誰がいるのよ! 誠、締まりのない顔見せないでよ!」
くうぅぅぅ……
僕がいつ締まりのない顔を見せたって言うんだ!!
それにしても、今からギル様に会わないといけないのか。ギルバート・セム・オクト。厳しい軍人さんみたいな鋭い目つきが特徴で、そこにいるだけで変なプレッシャーがある……一言で表すなら、そこにいるだけで空気が引き締まる怖い先生みたいなタイプの人だ。会うのなら、事前に気持ちを整えたいところなのだけれど。
しかし、再び扉が叩かれ、あの秘書官らしい女性が扉を開けたかと思うと、ギル様が現れてしまうのだった。
「フィオナ。まずはワクソームの攻略、ご苦労だった」
鋼鉄を思わせるような堅い態度に、僕は思わず背筋を伸ばしてしまうが、フィオナは毅然として受け止める。
「お兄様こそ。私が留守の間、ご面倒をおかけしてしまったと聞いています。ご対応いただき、ありがとうございました」
「あの程度の雑務、気にするな」
ギル様、やっぱり怖いなぁ……。
お願いだから、こっちは見ないでくれ、
と僕は視線を逸らすのだが、ギル様の後ろに控えている人物が二人いることに気付く。
「ち、千冬?」
見知った顔に、思わず言葉を漏らしてしまい、ギル様の視線が僕に向けられてしまった。
「……千冬。お前の知り合いか?」
ギル様は振り返って千冬に確認するが、彼はよく通る声で答える。
「いえ、知りません!」
いやいやいや!
何を言っているんだ。
僕とプロトタイプのブレイブアーマーを奪い合って戦ったじゃないか!!
本当に忘れてしまったのか?
と思ったが、ギル様が再びフィオナの方を見ると、千冬は物凄い形相で僕の方を睨み付けてきた。視線だけでも殺されるのでは、と思うほどに、怒りの感情がたっぷりだ。あいつ……負けたことを根に持ってやがる。やっぱり覚えていたんじゃないか!
ちなみに、千冬の横には大人しそうなお姉さんが立っているけど、ギル様の秘書だろうか。凄い美人で知的な雰囲気がある人だけど、冷たそうな印象だ。
「それで、何かご用でしょうか?」
フィオナの声に、全員の意識が再びギル様の方へ向けられた。
「うむ。アミレーン地区で何やら騒がしいことが起こっているらしいが、お前の耳には何か入っているか?」
「いえ、何も。お兄様が手を煩わせるようなことですか?」
さすがフィオナだ。ギル様のあの目で見られたら、動揺してしまいそうなものだが、平然と嘘をついている。実際、ギル様は鋭い視線で、フィオナの動揺を誘い出そうとして、部屋の空気が重々しいものになっていた。しかし、フィオナの表情が変わらずにいると、ギル様は質問に答えることもなく、セレーナ様の方へ視線を向ける。
「誰かと思えば、大聖女様ではありませんか。女神信仰と教会の秩序を守るため、日々お忙しいはずの貴方が、なぜ愚妹のもとへお出でか?」
ギル様、完全に疑いの目で見ているじゃないか!
つまりは、何か良からぬことがなければ、セレーナ様がフィオナのところに来るわけがないだろ、って言っているんじゃないか?
事実を述べなければ鈍器で殴ってきそうなギル様だが、セレーナ様は華やかな笑顔を返す。
「普段は大聖女ともてはやされている私とて、どこにでもいる年頃の乙女です。暇があれば、同級の友に会いたいと思うこともあります。とは言え、フィオナ様は私を構う時間はないようなので、そろそろ失礼するつもりでしたが」
同級の友?
フィオナとセレーナ様は友達だったの?
僕は意外なことに面を食らっていたが、ギル様の方は何事もなかったように頷く。
「……そうですか」
納得したわけではないのだろうが、特に追及することはないらしい。
「最近、オクトの街も物騒になりました。大聖女様も夜道を一人で出歩かぬように。不審者と勘違いされ、後ろの二人に拘束されることもありますので」
「心がけます」
「では、私は先に失礼する」
踵を返すギル様だったが、最後にフィオナを睨み付けた。
「フィオナ。アミレーンの件、何か情報が入れば私に報告すること。小賢しく立ち回ろうとは思うなよ」
「小賢しく立ち回ったことなどありません。私もお兄様も、自らの志を守るだけでは?」
そんなフィオナの返答に、ギル様は嘲るように鼻を鳴らして、部屋を出て行くのだったが……
その間、後ろに控えていた千冬がずっと僕を睨み付けていたのだった。
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