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【難しいご機嫌取り】

「遅い!」


ヘリコプターにピックアップされた僕を、フィオナは怒鳴りつける。


「いやいや! 僕だってお前がこんなところで呼びつけられるとは思わなかったんだ。仕方ないだろう!」


「仕方なくない。貴方は私の部下なの。いつどんな時も呼び出されたら一分以内に駆け付けなさい」


「無茶言うなよ……。で、お前がヘリに乗って駆け付けるなんて、そんなに緊急事態なのか?」


溜め息交じりに僕が言うと、フィオナがなぜか目を逸らす。


「緊急ってわけじゃないけど、早めの方がいい案件ではあるわ」


「なんだよ、遠回しな言い方だな。どこに向かっているんだ?」


「オクト城よ」


「緊急じゃなくて、オクト城が目的地なら呼び出してくれればいいのに。大変だったんだぞ、皆から変な目で見られて、ひそひそと噂されてさ」


「……仕方ないでしょ!!」


グチグチ言う僕を遮ったかと思うと、フィオナはヘリの運転手さんを気にしながら、僕の方に顔を寄せると耳元で囁いた。


「仕方ないでしょ、早く会いたかったんだから」


「えっ……?」


少し距離を取ると、フィオナは「言わせないでよ」と呟いてから、拗ねたように唇を尖らせている。こ、これって……


僕の方から何か言った方がいいの?

謝るべき??

誰か教えてよ!!


「えっと……フィオナさん?」


「貴方のせいで、私は気分が悪いです。もう何もやる気が起きません。下手したら国が傾くかも」


そ、そんなに!?

私情で国民に迷惑かけちゃダメだろ!!


「許してほしいの?」


僕の慌てっぷりに気付いたのか、フィオナが鋭い目で確認してくる。


「はい、許してほしいです」


すると、フィオナは少しだけ口元に笑みを浮かべた。


「じゃあ、素直に答えなさい」


「な、何を?」


「良いわね。素直に(・・・)答えなさいよ」


お得意の圧をかけてくる王女様。何を質問されるのだろうか。今度こそ、ニッコリと微笑んだフィオナは、僕に問いかける。


「私に会いたかった?」


「う、うん」


「会えて嬉しい?」


「……うん!」


良い返事をしたつもりだったが、なぜか睨み付けられてしまう。


「言わされている感、出てるけど?」


「そんなことないって!!」


疑惑の目を向けられるが……ちゃんと本音のつもりなんだ。ただ、フィオナが言わされている感が出てしまう空気を作っているだけで!


しかし、フィオナは納得してくれないのか、ふんっ、と鼻を鳴らしてしまう。


「私に機嫌を直してほしいなら、自分で何とかしなさいよ」


「何とかって、何するの??」


「自分で考えなさい!」


わ、分からん。

どうすれば良いんだ??


「それより」


突然、フィオナが話題を変える。きっと、これが本題で何らかの問題を抱えているのだろうが、正直ちょっとだけほっとしてしまう。


「問題発生よ。それがアミレーンで起こった事件だから、あんたに白羽の矢が立ったわけ。具体的には、ある人の護衛と協力なんだけど」


「ある人って誰?」


「護衛対象は、その事件の重要参考人で、元勇者。もう一人、協力要請がきている相手だけど……」


「けど……?」


フィオナはなぜか僕を睨む。


「貴方、ネットのアイドルって言うか、インフルエンサーみたいなの、興味ある?」


ネットのアイドル?

インフルエンサー?

何の話なんだ?


「そういうのは、良く知らないけど……何か今回の件と関係あるのか?」


フィオナは腕を組み、どこか苛立たし気に言うのだった。


「今回、協力要請を出してきた人物は、セレーナ・アルマ。女神教会の大聖女様よ」

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