【最強の妹、爆誕】
「会いたかったーーー!」
アオイちゃんはドアをごみのように、共同通路へ捨てると、部屋の中に入り込み、僕に飛びついてきた。
「ぎゃあああぁぁぁーーー!!」
体を引きちぎられたり、脳をかき混ぜられたり、彼女から受けた暴力を思い出し、絶叫する僕だったが……。
「アオイ、寂しかったよぉ!」
アオイちゃんは僕の胸のあたりに額をこすり付けながら笑っているだけだ。どういうことだろう、と混乱していたが、彼女の力が強すぎても、僕は押し倒されてしまった。そして、馬乗り状態でアオイちゃんが僕を見下ろす。
「ねぇ、何で怖がるの?? アオイと一緒に住むの、嬉しくないの??」
「だ、だって……僕は君に殺されかけたんだよ?? 怖いに決まっている……って、今何て言った??」
「だから、何で怖がるのって」
「じゃなくて、その後!」
「何か言ったっけ?」
「一緒に住むとかどうとか……」
混乱する僕だったが、アオイちゃんの方も首を傾げる。
「聞いてないの?」
「聞くって何を? 誰から?」
「あー、その件なら」
居間の方からセレッソが顔を出す。
「私とフィオナで決めたんだ。ソール……いや、アオイには居場所がないからな。どうせなら、一緒に住めば良い、という話しになったんだ」
「は、はぁ??」
「そうなんだよ!」
アオイちゃんは立ち上がり、僕を引っ張る。
「ぐっ、ぐえぇ!!」
そして、ぬいぐるみでも扱うように抱きしめてきたのだった。
「フィオナお姉ちゃんに誠お兄ちゃんと一緒に住みたいってお願いしたら、許してもらえたんだ!」
「めちゃくちゃ嫌そうな顔はしていたけどな」
とセレッソが補足する。
「アオイちゃん、離して! 死ぬ! 内臓が全部出ちゃうから!」
「あ、ごめん」
何とか解放され、一命を取り留めたが、分からないことばかりなのは変わらない。
「で、でも……アオイちゃんは魔王なんだろ? そんな子をアミレーンの変哲もないマンションに住まわせて大丈夫なのか??」
「もちろん、城の地下にある秘密施設で氷漬けにして封印する案もあったが、こいつには無駄だし、城内に住まわせるにも、酷く嫌がってな」
「だってぇ!!」
アオイちゃんが涙ながらに言う。
「私、セレッソのせいで千年も暗い岩の隙間の中に閉じ込められていたんだよ??」
「お前、そんなことしたのか??」
セレッソに事実を確認すると、珍しいことに決まり悪そうに口をもごもごさせている。……やったんだな。
「しかも!」
続きがあったのか、アオイちゃんは僕の手を引っ張りながら言う。痛いから、もう少し弱めにしてほしいだんけど……。
「しかもね、せっかく外に出られても、身分証もないから住むところもままならないし、イワンの手伝いを始めても、ワクソーム城の奥で大人しくしてろって言われてたから、人間らしい生活なんてできなかったんだよ!」
「そ、そうだったんだ」
……確かに、可哀想かもしれない。
「私も昔のよしみに窮屈な思いをさせられないからな。何とかフィオナに頼んだんだ」
「そう! しかも、オクトの戸籍をもらったの!」
アオイちゃんは嬉しそうに安っぽい財布を取り出し、そこから身分証らしきカードを取り出した。
「見て、神崎葵だって」
「か、神崎?」
確かに、氏名のところに「神崎葵」と書かれていた。それを嬉しそうに天へかざすと、アオイちゃんは宣言した。
「うん。私、本当に誠お兄ちゃんの妹になったんだよぉぉぉーーー!!」
「……はぁ?」
千歳年上で、しかも元魔王の妹と同居って……もうよく分からなくない!?
って言うか、僕だってこの世界の身分証、もってないんですけど!?
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