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【コミカライズ】毒殺された世界無双の毒魔法使い  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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ドラス五世


 聖教における聖地である聖都アランには、複数の聖堂が存在している。

 その中で最も有名なのはそのステンドグラスや建築様式の壮麗さから国内外に名を轟かせているセント・ラカンテス大聖堂だ。


 だがこれは聖教にある程度詳しいものでなければ知らないことだが、実はセント・ラカンテス大聖堂は聖教の歴史の中では比較的最近になってから建てられた宗教施設である。


 優に千年を超える聖教の歴史の中で、最も古くからある聖堂は、その名をセント・ロズワイル大聖堂という。


 このセント・ロズワイル大聖堂はアランの中央部からかなり外れた西側に建っている。


 何度も都市開発を行ううちに東に伸びていったアランにおいて、旧市街と呼ばれているこの地域はアランの中でも特に活気のない場所に、その聖堂は場所にぽつりと建っていた。


「ふぅ……」


 セント・ラカンテス大聖堂の精緻を極めたステンドグラスと比べればいささか朴訥で、悪く言えば作りの甘い色ガラスから漏れ出す光を、一人の男性がその身に浴びている。


 その齢は六十前後だろうか、枯れ枝を思わせるほど細身の老年の男性は、腹のあたりまで伸びている真っ白な髭をしごきながら、天を仰いでいた。


 彼はドラス五世――このクリステラ聖王国において最も権威ある存在である教皇その人である。


「……」


 教皇という存在を、一言で定義することは難しい。

 彼は間違いなく宗教的には神と聖教徒をつなぐ架け橋である。


 だが基本的に教皇は一部の教皇直轄領を除くと枢機卿時の教区をそのまま引き継ぐため、ドラス五世が影響を及ぼすことができる地域はさほど広くはない。


 その権力は、枢機卿全員に強権を振るえるほどに強いわけではない。

 だがそれでも枢機卿達は、基本的に教皇の考えを尊重することが多い。


 なぜかと言えばそれは彼らが未来の教皇候補であるからであり、そして教皇には聖堂騎士をはじめとする教会が保有する戦力の統帥権を持つからであった。


 ドラス五世はゆっくりと後ろを振り返った。

 そこには自身に侍っている二人のシスターの姿がある。

 彼女達が自身を見つめる目は無機質で、まったく動かない表情筋と相まってまるで人形のようだった。


(ええいっ、まったく心が安まらん!)


 ドラス五世は聖教における最高権力者である教皇ではあるが、彼の立場は盤石とは言いがたい。

 その理由は色々あるが……中でも最も大きいのは、彼が枢機卿の一人であるマンサル・アフロッドに大きな弱みを握られてしまっている点だ。


(こんなことになるのなら、やつの口車に乗るのではなかった!)


 本来であれば枢機卿を動かす立場の彼は現在、枢機卿によってその言動を制限されてしまう立場にある。


 彼の後ろに控えているシスターが教皇である自身へまるで尊崇の気配を見せようとしないのは、彼女たちがマンサルの息のかかった者達であるからに他ならない。


 教皇は現在、マンサルによって監視されている立場にある。

 今のところ小康状態を保ててこそいるものの、下手を打てばその時は、突然の病によって倒れることになるだろう。


(一体どうして私がこんな目に……)


 ドラス五世は自身のことを善人だとは思っていない。

 教皇に至るまでには当然ながら後ろ暗いことにも手を染めてきたし、謀殺した人間の数は両手両足の指では到底数え切れないほどだ。


 だがそれでも彼は枢機卿会議による満場一致によって教皇に選ばれた存在だ。

 故に彼の自尊心は高く、そしてマンサルのせいでそれが粉々にされたことを強く恨んでもいた。


(さっさと教皇を引退してもいいが、用済みになれば殺されるだけだ。現状を打破するためには……なんとかしてマンサルを亡き者にするしかない)


 自身が教皇として以前のような強権を振るうためには、余計なことを知りすぎているマンサルの存在は邪魔でしかない。


 だが今の自分が何か行動を起こせば、それはすぐにマンサルに知られることとなってしまう。

 故にドラス五世は自身から積極的に動くことなく、ただじっと機を待ち続けていた。


「……っ!?(びくっ)」


 ドラス五世は今日も周囲のマンサル派の教会関係者達に囲まれながら、心安まらぬ日々を送り続けている。


 ――ここ数年、マンサルからの干渉を受け続け彼のことでいっぱいになっている教皇の頭からは、あることがすっぽりと抜け落ちていた。


 それは枢機卿は皆が教皇を目指しているということ。

 そしてクリステラ聖王国には枢機卿達が台風の目として見込んでいるロンドと、彼と関係性を深めている聖女が存在しているということだ。


 アランの中央から外れたところにいるからこそ、彼は気づかない。

 現在のクリステラがかつてないほどに大きな時代のうねりの中で、一大変革期を迎えているのだということを――。

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