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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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まだまだ


「いかにも」

「ほう……」


 ディルは間髪入れずに答えた。その潔さに思わずため息をこぼされる。

 ディルはヤポンに入ってから、偽名は使っていない。

 大陸式の名前を使っているからには、こういった事態も想定済みだ。

(下手に偽名を使うくらいなら、流れ者として扱われた方がいい。それに……わし、嘘つくの苦手じゃし)

 そんな考えからの行動である。

「武芸者がヤポンに来ることはままあることだ。ある者は刀匠の鍛えた名刀を欲し、またある者は武者修行の旅という理由で来たこともある。ちなみにだが……私は海を越えたあちらに情報を持ち帰るための人間は、残らず斬り殺してきた。それを踏まえた上で質問をさせてもらおう」

 ヤポンの人間は、当主まで含めて皆物騒だ。

 正直ちょっと帰りたいかもしれない。そんな弱音を心の内に押しとどめ、彼は不敵に笑う。

「御主はなんのためにこのヤポンに参られた?」

「もちろん理由あってのことにござりまする」

「疾くその理由を述べられよ」

「言えませぬ……忠義に関することなれば」

「ほう……見上げた忠誠心だ。だが……」


 その忠誠の方向は、大陸の人間へは向いておるまいな?

 ドウセツの言葉にディルは迷いなくこくりと頷く。


 ――ディルがこのヤポンで心がけていることがある。

 それはとにかく、嘘をつかないということだ。

 全て本当のことを話さずとも、嘘をつかないくらいのことであれば、腹芸が苦手なディルでもできる。


 今回もディルは何一つ嘘はついていない。

 彼が動いている理由はイナリの忠誠のためだし。

 彼女の忠誠は、ヤポンに住む千姫に向けられている。


「ふむ……嘘は言っておらぬ、か……」

「はっ」

「だが全てを申したわけでもあるまい?」

「……」

「安心せい、御前が六国に仇為す者でなければ、何も言わぬ」


 ドウセツはそれだけ言うと、パチリと指を鳴らす。

 先ほどからディル目掛けて放たれていた殺気が、瞬時のうちに霧散した。


 恐らくはイナリと同じ、シノビの者達だろう。

 以前ウェッケナー男爵のところにいた間諜は、ディルでも正確な数を把握することができたが……流石ヤポン。

 中に相当な手練れがいるようで、茫漠とした殺意だけが向けられていて、上手く気配を気取ることができなかった。


 とりあえず戦闘に発展する事態は避けられたようだ。

 それならばと、ディルは早速自分がわざわざ目立ってまでここにやってきた理由を説明することにした。


「昨今の長砂国について、ドウセツ様は如何お考えか」

「……ふむ、そのやり方は卑怯千万。しかしそこまでして六国統一を求める姿勢には見るべきところがあるだろう」

「ご子息が暗殺されかけたことに関しては?」

「戦乱の世だ、仕方のないことではある。シゲハルが生きていたことは親としては嬉しいが、領主としてはそこに私情を挟んで大局を見失う愚を犯すわけにはいかん」


 どうやらモトチカに良い思いは抱いていない様子。けれどモトチカの勢力が強まった時のことを考えて、おおっぴらに否定することもできないのか、返ってくる答えはどれも玉虫色のものばかり。


(じゃがハルチカ様もそうだったが、やはりモトチカは誰からも反感を抱くような強引なやり方ばかり採っているようじゃ。そこまでして六国を制覇しなければならない理由があるんじゃろうか……)


 これなら反モトチカの同盟を組むこと自体はそこまで難しくはなさそうだ。

 だがそれを提案するのはまだ早いだろう。

 それができるだけの実績は、今のディル達にはない。

 なのでディルは今回もハルチカの時同様、自分の願いだけを語ることにした。

 それを聞いたドウセツは――快哉を叫んだ。


「なるほどなるほど! げに面白き考え方をする御仁であるなぁ!」


 ディルの案は、けれどある程度上の立場に立たなければできないものだ。

 故に彼はやはり、長砂を獲らなければならないだろう。


 けれどこれで双爪と柳楼へのとっかかりは手に入れることができた。

 残るは長砂を除いた三国。

 ディル達の旅路はまだまだ続く――。

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