他愛ない
「ふむ、実に他愛なかったですな」
「その通り、これならわざわざ私が出てくる必要はなかったか……」
海賊討伐は、実にあっけなく終わった。
自分達の居場所が掴まれているなどとは思ってもいなかった海賊達はあっという間に一網打尽にされ、お縄についた。
懸賞金がかかっていようと未だ若かろうと、容赦なく倒されていくその様子を見れば、ディル達が加勢をする必要がないのは明らか。
ディル達はただ何もすることなく、邪魔にならぬようにシゲハルの近くにいるだけだった。
今は盗賊の中でも未だ更生の見込みのある子供達や、連れ去られこの場所に監禁されていた女性などを運んでいる最中だ。
中にはこの島に連れ去られた女性が、海賊に産まされた赤子までいた。
むごいことだと思いディルは顔をしかめたが、当の母親が実にあっけらかんとしたもので、子供と二人でこれからは生きていくという。
女性の強さというものを改めて感じながら、ディルはシゲハルの護衛に睨まれない範囲で近付いて話をすることにしていた。
(……なんじゃろう、これ)
漠然とした予感があった。
そしてこの孤島に降りてからというもの、ディルの首筋がちりちりと痛むのだ。
この謎の痛みが、彼には警鐘のように思えてならなかった。
「ちなみに海賊の居所は、どこから得たのでしょう?」
「うちの諜報部からだ。海賊達も人間である以上、最低限の生活必需品は必要になってくる。どうやらそちら側から辿ることができたらしい」
話を聞いている最中、今まではぼんやりとしてとらえどころのなかった危機感が膨れ上がる。
脳内をアラートが鳴り響き、ディルの中にある何かが必死で訴えかけていた。
ディルは『見切り』を使う。
自分がすべき身体の動かし方がわかる。
けれどそれは、今までとは何かが違った。
その正体に気付くだけの余裕はなく、ディルは『見切り』が描くラインをなぞるように身身体を滑り込ませる。
「――シッ!!」
「ほいっと!」
逆袈裟、避けることのできぬ一瞬の間隙を縫って放たれた致死の一撃。
『見切り』を使いその攻撃のルートを知ることができていたディルだけが、攻撃を差し込むことに成功する。
「……バカなっ! 今の一撃を事前に予期できるはず――」
慌てる襲撃者に対し、ディルは不敵な笑みを返す。
「お前さんの攻撃は、見切っとるよ。なんせわし……これでも修羅場、何個も潜ってきとるからの」
ディルは少しだけ冷静になり、『見切り』が示してくれた答えの意味を知った。
今まで『見切り』は、どうすればディルが最適化された動きをすることができるか、そしてどうすれば敵に攻撃をし、敵の攻撃を防ぐことができるのかを教えてくれた。
しかし今行った攻防には、今までとは明らかに違う点が一つある。
それは――自分ではなく、シゲハルを守るための道筋が見えたこと。
今までには自分にのみ向けられていたスキルが、他人のためにも使うことができるようになった。
(これが、スキルの進化……というやつかの)
スキルは使い込むうちに、変化や進化を行うことがある。
どうやらディルの持つ『見切り』は、自身でも気付かぬうちに進化を遂げていたらしい。
「ちいっ!」
シゲハルへとその兇刃を向けた人物は、黒装束に身を包んでいた。
ぴっちりと身体に張り付くようなボディースーツのようなものを着ており、その凹凸から女性であることがわかる。
恐らくは彼女はクノイチ……イナリと同じく、特殊任務などを専門に請け負うシノビの一人なのだろう。
すうっと、女性の身体が消えていく。
完全に背景と溶け込み、姿が消えてしまった。
透明化のような周囲の環境に溶け込めるスキルを持っているのだろう。
いかにも暗殺向きの能力だ。
けれど『見切り』を持つディルを相手にすれば、その能力はあまり意味をなさない。
(――後ろっ!)
キンッ!
消えたクノイチの持つ短刀が迫ってくるが、ディルはそれを見ることもなく防いでみせる。 相手が攻撃を仕掛けてくれば、ディルのスキルはどうすればそれを防げるのかを教えてくれる。
消えた相手を追いかけることはできずとも、ディルが相手の攻撃に対応すること自体はひどく容易だった。
(わし以外を狙われる方が面倒じゃ……ここは一気に、カタをつけるっ!)
ディルは容赦することなく、最適手を選び続ける。
攻防を続けるうちに、どうやら相手は透明になるだけで、実体は持ったままらしいことがわかった。
であれば消える瞬間も、相手は間違いなくその場所にいるということになる。
ディルは相手が透明になり姿を消すことを防ぐため、細かい連撃を重ねる形で追い詰めていく。
軽い突きを多用しながら、撫で切りで相手に裂傷を与えていくと……。
「きゅうぅ……」
「なんじゃ、もう終わりかの」
ディルが想定していたより早く、クノイチは意識を失うのだった――。
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