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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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 ディルは今まで、水上戦をしたことがない。

 下手に手を出して、イナリが言うように海に落ちてしまってはつまらないので、まずはしっかりと観察をすることにした。


 けれど敵は間近に迫っている。

 まずは一閃、こちらに飛び乗ってきたばかりの海賊の身体を袈裟懸けに斬った。

 ディルの一撃を食らった盗賊はそのまま信じられないといった顔をして、海の中へと落ちていく。


(ふむ……全力は乗らんの)


 足場は不安定で、踏み込みは甘くなる。

 そして貨物や荷物も多く向こうから敵も襲来してくるため、とにかくスペースの余裕がない。

 自分の足場を確保するので精一杯で、全力戦闘ができる隙間はどこにもなかった。


「へっへっへ、なんだよどんな凄腕の護衛がいるかと思ってきてみれば。ジジイと女一人とは、貴族ってのは相変わらず何考えてるかわっかんねぇなぁ!」

「ですねぇ副船長、さっさと捕まえちまいやしょう!」

「ぎゃはは、アンディのやつこんなちんちくりんどもにやられてやがる!」


 にやにやと笑いながら、海賊達がディル達の方へと近付いていく。

 数は七、梯子の向こうにはまだ何人もの姿もある。


 イナリの方を向くと、こくりと頷いた。こちらは任せておけ、という合図だ。

 後ろで心配そうな顔をするアキコに笑いかけてから、ディルは不安定な足場をかけ出した。 イナリにアキコを守ってもらえるのであれば、あれば自分がすることは決まっている。

 『見切り』を発動しながら駆ける。足がもつれぬよう、全体的な視野を保ちながらだ。

 そしてすれ違いざまに、こちらを見失った様子の海賊達の腹を撫で斬りにしていく。


「なっ!」

「ぐっ!?」

「ぎゃああっ!?」


 平の海賊も副船長とやらも、まとめて斬り捨てていく。

 イナリが言っていた通り、皆大した使い手ではなく、ディルの攻撃を避けることすらできずに腹から臓物をぶちまけていく。


 位置取り的に全員を海の中へ飛び込ませることはできなかったが、問題はないだろう。

 ディルは勢いそのまま逆襲撃をかけていく。


 毒を使うことができるイナリがいる以上、ディルの存在は枷になりかねない。

 彼女単体であれば毒を使って海賊達を制圧できる。

 ディルが船内にいれば、イナリは全力を出せないだろう。


 ディルはかけられている梯子に乗り、海賊達がしたように梯子を経由して相手の海賊船へと乗り込んでいく。


「おいおいおいっ!」

「き、来やがった! ジジイが来やがったぞ!?」

「な、なんつう速さだ!」


 『見切り』を使って全力疾走で梯子を駆けていくディルの姿を見た海賊達は、完全に縮み上がってしまっていた。


 どこにどう足を動かして進めば姿勢が不安定にならないかを見切ることができるディルからすれば、ボロい梯子ですら造りのしっかりとした石橋と変わらない。


 ディルは乗り込んではそこにいる海賊達を斬り捨て、また一度船に戻っては新たな海賊船へと乗り込んでいく。


 戻ってくる度に、船は赤く染まり血の跡が増えていた。

 船員達は死体を海の中に投げ捨てているおかげで、船が死体の重さで沈む事態は避けられている。


 さて、また新たな船に乗り込もうかとしたところで、梯子が一斉に上がった。


「に……逃げろ! こんなのわりに合わねぇ!」

「ちっ、聞いてないぞ! この船がこんな化け物揃いだなんて!」


 船は散り散りになって逃げていく。

 この船は武装船ではなく、また深いところまで進んでしまえば地の利はこちらではなく向こうにある。

 ディル達は去っていく船を追わず、このまま目的地に向かうことにした。


(聞いてない、か……何やら匂うのぉ……)


 柳楼国へ無事辿り着くことに成功したディル達。

 けれどどうやらこの国での旅路は、一筋縄ではいかなそうだった。

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