決着
ソラルは両手で刀を持ち、横向きに構える。
その姿勢は低く、目はどこまでも剣呑だ。
先ほどまでのように落ち着いた様子は微塵も感じられず、肉食獣を思わせる獰猛な表情を浮かべている。
対しリンダは、ソラルとディルから三歩ほど引いた位置で杖を持っている。
片目をつぶっているのは、意識を集中させているから。
「――シッ!」
まず先んじたのはディルだった。
ディルは毒を嗅ぎ興奮しているグリフォンが襲いかかってくるよりも速く、ディルは前に出る。
黄泉還しが狙うのは、先ほどディル自身が傷つけた首筋だった。
剥き出しになった急所を狙った一撃を、グリフォンは野生の勘で避ける。
けれどそこまで、ディルの想定内。
ディルは手首を返して、攻撃の間際に狙いを変えていた。
本当に狙っていたのは、先ほどソラルが短剣を突き刺した位置だった。
どういう理屈か既に短剣は抜けており、傷口も塞がり始めている。
けれど高い防御力を誇る毛皮を貫くよりは、よほどダメージを通しやすい。
「キャオオオオオッッ!?」
グリフォンは傷痕を再度ほじくり返されたことで痛みに呻く。
けれどそこはさすがに魔物、すぐに立て直してディルへと向き直る。
そしてその隙を狙ったソラルがグリフォンへと刀を突き立てようとする。
だがグリフォンは軽やかに空を蹴り、その一撃を回避。
駆け上がった勢いを利用した踏みつけは、足裏とリンダの炎槍がぶつかることによって回避される。
ソラルとリンダの攻撃は、グリフォンに一蹴されてしまう。
即座にディルがカバーに入っていなければ、今の攻防のうちに二人はやられてしまっていたことだろう。
そして幸か不幸か、二人はそれを理解できてしまうだけの実力を持つ一流の冒険者だった。
二人はどちらからともなく視線を交わした。
そして合わさった視線の行く先は、単身でグリフォンの攻撃を捌ききっているディルへと向かう。
(私達ではまだ届いていないというのに……)
(あのおじいちゃんはいったい、何者なの……?)
ディルは少しだけ息を荒くしながらも、グリフォンと応酬を繰り返していた。
向こうは手負いであり、今も傷口からは血を流している。
消耗戦に持ち込めればとも思ったが、それをするにはディルの体力が足りない。
戦いが長引けば不利になるのは、むしろディルの方だった。
グリフォンの方が仕切り直しとばかりに距離を取る。
そしてそのまま大きく口を開けた。
嘴の中のびっちりとした歯列が見えたかと思うと、内側の口腔が露わになる。
コオォォォという甲高い音が鼓膜を震わせる。
ディルの『見切り』が警鐘を鳴らした。
「伏せる!」
『見切り』が導き出した答えに従い、ディルは思い切り地面に倒れ伏した。
そしてソラルとリンダは何が何だかわからなかったが、言われるがまま急いで頭を下げた。
するとディル達の頭部を打ち抜く軌道で、何か光るものが物凄い速さで飛んできた。
(あれは……グリフォンの使う魔法、と考えた方がよさそうじゃの)
魔法を使う魔物は珍しくない。
だが調べた限りでは、グリフォンは基本的には魔法を使うことはない魔物という話だった。
ということは目の前の敵はその例外。
特殊な個体なのか、それとも魔法が使えるほどに成熟した個体なのか。
なんにせよこのグリフォンが遠距離攻撃の手段を持っていることを考慮に入れて戦わなければならない。
(遠距離ができる空を飛べる魔物……そりゃもう、ドラゴンとそう変わらん。強さもい級に迫るくらいに考えといた方が良さそうじゃな)
遠距離の攻撃手段を持つ飛行能力持ちであることを考えると、相当に手強い。
というか、空から一方的に攻撃を繰り出されてそのまま逃げられてしまうようなことを繰り返されれば、為す術がない。
あちらは傷一つつくことはなく、こちらはひたすらに消耗を強いられることになる。
(あの冒険者達が手を出した今、危険は倍増。なんとしてでもここを仕留めなくちゃいかんの)
今まで目の前のグリフォンは、攻撃する手段を持っていたにもかかわらず、相実の街を襲ってはこなかった。
わざわざ挑発するような真似をして誘き出さなければ、グリフォンが人を危険だと考えることもなかっただろうに。
ディルは自分目掛けて迫ってくるグリフォンへ、黄泉還しの切っ先を向ける。
グリフォンは真っ直ぐディル目掛けてやってきた。
恐らく三人の中で一番危険なのが彼だと、本能のうちに察したからだろう。
その感覚は、まったくもって正しい。
何故ならディルは――ドラゴンと並ぶほどの暴威を持つグリフォンを前にしても、まったく危険だとは思っていなかったのだから。
ディルが剣を振る。
グリフォンが腕を振るう。
両者のタイミングは同じ。
ディルの鎧が凹み、グリフォンの爪と肉の間の部分に切れ目が入る。
指と爪の間の肉が削がれる痛みは想像を絶する。
グリフォンは声を上げながらも反転。
そこにソラルとリンダの攻撃が。
彼らは今自分達にできる一番のことが、ディルを援護することだとわかっていた。
リンダの火魔法が炸裂するのと同時、ディルの姿が消える。
魔法をめくらましとして、視界から逸れるように大きく動いて背後を取った。
そのまま一閃。
グリフォンは直前で対応、未だ無事な毛皮を撫でさせるような形で攻撃を捌こうとするが、毛皮がぷっつりと断ち切られ血が噴き出す。
二閃、三閃、四閃。
ディルがグリフォンの返り血に塗れ、グリフォンは口を開いてはディル目掛けて魔法を放つ。
たしかに一撃の威力は圧倒的に魔法の方が高いのだろう。
けれどその魔法は光線であり、直線的だった。
『見切り』で危険察知ができてしまうディルからすれば、それはどれだけ速くともテレフォンパンチに過ぎなかった。
ディルが斬り付ける。
薙いで、削いで、突いて、穿つ。
時折やってくる援護は、ディルの動きを妨げないように最大限の配慮がなされていた。
おかげでディルは動きづらさを感じることなく、グリフォンと相対することができる。
攻防は数十分にも思えたが、実際は数分のことだろう。
「グル……」
グリフォンが、断末魔の鳴き声を上げながら倒れる。
そしてそのまま、二度と起き上がることはなかった。
見ればその身体は傷だらけであり、とてもではないが毛皮は高くは売れないだろう。
だがディルはたしかにグリフォン討伐を成し遂げた。
ディルが手を上げれば、ソラル達はそれに呼応するようにグッと拳を突き上げたのだった――。
【しんこからのお願い】
この小説を読んで
「面白い!」
「続きが気になる!」
「応援してるよ!」
と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
あなたの応援が、しんこの更新の原動力になります!
よろしくお願いします!




