バムスター
迷宮を潜るにあたっては、何をするにもまず情報収集である。
ディル達は自分たちが持っている情報や周囲から集めた情報をまとめてみることにした。
まずモンスター部屋、これは大体一階層につき一つある。
ディル達は基本的に可能であれば避けて通っているため、中に入ったことはお試しの一回も入れて併せて三回だけ。
そしてその少ない試行回数では、宝箱を手に入れることはできなかった。
次に通常のボス部屋、これが十階層につき一つある。
第十階層、そして第二十階層での戦闘も済ませたが、こちらでも宝箱を手に入れることはできなかった。
最後にこのダンジョン内にいくつか存在している、ランダムなボス部屋。
こちらに関しては、未だ一度も試したことがない。
ディル達が今回試すことにしたのは、このタイプである。
初めてということで、今回はその中でも特に情報が出揃っている、さほど強くない魔物を選ぶことにした。
ディル達が戦うことを決めたのは、第八階層にあるボス部屋の魔物―――バムスターである。
「バウウウウウウウウッ!」
ボス部屋に入ると同時、大きな唸り声が聞こえてくる。
ディル達が視線を前に向ければ、そこにはお目当ての魔物がいた。
バムスターは、大きな犬のような魔物である。
鋭い犬歯に、簡単な刃ならば通さぬ強靱な毛皮。
だがその最も強力な特徴は、口から火炎放射を噴き出すところである。
火属性の攻撃を放てるバムスターは、炎熱に対し強い耐性を持っている。
そのため今回は、ウェンディの一撃で勝負を決めきることは難しい。
倒せるかどうかは、ディルと黒騎士の攻撃にかかっている。
「行くぞいっ!」
「(コクリ)」
ディルと黒騎士は、左右に分かれて一気に前に出た。
そしてイナリが中衛兼後衛の護衛として真ん中に位置取り、ウェンディは遠方から魔法を放つ準備をする、いつもの陣形である。
先に敵に到達したのは黒騎士の方だった。
バムスターは白く濁った瞳で、彼をにらみつける。
剣を構える黒騎士の全身から、チャキリという金属音が聞こえてきた。
「ブラアアアアアアアッ!」
前進しながら、上段に構えた剣を振り落とす。
今や彼は呪いを制御下に置き、狂乱に身を任せることなく戦闘を行うことができる。
大振りの一撃を、バムスターは大きく後退して避けた。
しかしそれすらも、連携のうち。
「シッ!」
バムスターの攻撃を察知していたディルが、がら空きになっている脇腹に魔剣を差し込む。 毛皮の強度は高いが、黄泉還りは金属すら刺し貫ける鋭さのある剣だ。
問題なく内部まで攻撃が通り、バムスターは見た目通り犬のようなキャインという声を上げる。
攻撃をされた逆方向へ後退しようとする魔物に、イナリが放つクナイによる牽制が入る。
その動きが一瞬止まる隙を見逃さず、ディルは剣を更に奥深くへと突き込んだ。
バムスターが近付いてきたディルを噛み千切るべく、その口を大きく開く。
ディルは見切りを使いながら、その一撃を大きく身体を逸らせることで避けた。
勢いそのまま、横に回転し、剣を引き抜く。
そして一撃を放ち隙ができた魔物の背に、黒騎士の一撃が入った。
「散!」
イナリの声に合わせ、ディルと黒騎士が更に大きく距離を取る。
より近くに居た黒騎士へ狙いを定め、バムスターが口から炎を吐き出す。
腕を×字に交差させ、防御姿勢を取る。
「ウォーターカッター」
そして横を向いているバムスターに対し、ウェンディが魔法を発動させる。
彼女が最も得意なのは火魔法だが、それ以外の属性が使えないわけではない。
大量に消費した魔力により放つその水の刃は、凄まじい速度で獲物へと肉薄していく。
水の刃の周囲には、速度が速すぎるあまり余波が吹いている。
ディルは見切りを使い、その風の流れを見切っている。
彼はそれを己の追い風として使えるよう、跳躍しながら身体を捻った。
水の刃が、犬の顔面を切りつける。
鳴き声を上げて目を瞑ったバムスターの隙を、ディルは決して逃さなかった。
「これで……トドメじゃっ!」
ディルは瞼ごと、バムスターの瞳を貫く。
そして魔剣はその更に奥にある脳にまで到達し、致命傷を与えた。
ドスン、と大きな音を立てて魔物が倒れていく。
最後っ屁を警戒するために死ぬまで攻撃を加え続けながら、ディル達は自分たちの連携が、ボス相手にも問題なく通じることを改めて確信する。
魔物が完全に息を引き取り、その肉体がスウッと消えていく。
それはディルが初めて見る光景だった。
先ほどまでバムスターが居たところに、コテンと何かが横に転がっていく。
暗がりのためよく見えず近付いていくと……そこには金色の縁取りがなされた、宝箱があった。
次回更新は2/1になります




