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わしジジイ、齢六十を超えてから自らの天賦の才に気付く  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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結果


 第二十三階層の探索は、一週間ほどの期間をかけて完了させた。

 そもそもディル達のパーティーは、戦闘能力に関して問題はない。

 ゴーレムは防御力が高いためここは下層における一つの難関とされていたが、それほど苦しむこともなく突破ができた。


 第二十四階層に出てくる魔物は、ガルガンチュアスパイダーと呼ばれる毒を吐く蜘蛛の魔物の階層だ。

 しかしこれも毒の効かぬイナリが果敢に前に出ることにより、問題なく攻略ができた。

 今まで倒してきた魔物達が徒党を組む第二十五階層もまた、皆の活躍により突破。


 こうしてディル達は正真正銘、最前線とされる第二十六階層以下を攻略するパーティーの仲間入りを果たすことに成功する。


 パーティーでの戦い方にも随分と慣れてきた。

 少なくともウェンディも黒騎士も、今までソロを続けてきたとは思えぬほどに、連携ができるようになってきている。

 彼女達二人が組めば、もしディル達がこの場所を出て行ったとしても、恐らくは問題なく下層探索までこなせるだろう。

 いずれ訪れるであろう未来における別れを想像しながら、ディルは二人の展望が明るいことを確信していた。


 基本的な戦法も決まってきた。

 まず最初にディルと黒騎士が最前線へと飛び出し、相手の攻撃を捌きながら手傷を加えていく。

 そしてそこに、詠唱に時間が掛かるウェンディの高威力の魔法をぶちかますのだ。


 ディルは見切りにより魔法の効果範囲と、どのように身体を動かせばフレンドリーファイアを食らわないかを認識することができる。

 そして黒騎士は、ウェンディの魔法が当たっても動きを止めることがない。

 彼の場合、直撃でもしない限りは問題なく動くことができる。


 こうして近接職と魔法職が己の役割をこなし、適宜イナリがウェンディの保護や前方への援護を行う。

 この戦法を使っている限り、ディル達が戦闘で遅れを取ることはほとんどなくなった。

 更に言えばイナリにより罠の探知と敵の捕捉は問題なく行えるため、不測の事態が起こる可能性もかなり低い。


 ディル達は第二十五階層でのマッピングを終えた段階で、一度地上へ戻ることにした。

 既に彼らへの皆の態度は、一変している。

 正直なところやりづらい。

 そう思いながら、ディルは転移水晶を握った。



「おおっ、無銘ネームレスが帰ってきたぞ!」

「また魔石をごろごろ持ち帰ってきたんだろうなぁ」

「ウェンディちゃんは今日もかわいい!」


 ディルはこちらを憧れの目で見つめてくる冒険者達を横目に見ながら歩いて行く。

 現金なやつらばっかりじゃの、と苦笑する彼は、かつて自分が道楽のために迷宮に潜っていると言われていた頃のことを思い出していた。

 シアを雇い入れたことも、彼女の父の酒毒の問題を解決したことも、今となっては遠い昔のことのように思えてくる。


「わし、そんなに変わったと思う?」

「何も変わらんさ。人が何時だって、自分の見たいものしか見ようとしないだけだ」


 イナリは周りの者達全てをバカにした表情を隠そうともしない。

 どうやら彼女は、自分が最初にディルの玩具などと馬鹿にされていたことを、今でも根に持っているらしい。


 このスガンの街に来てから結構な時間が経っているが、イナリの容態や相貌に変化はない。 だが大して年を取ってもいない彼女が、それだけ何も変化がないというのがそもそもおかしな話だ。


 ディルは彼女の毒を扱う力の素晴らしさを、肌で感じている。

 しかしそれでも、やはりイナリの身体から毒を抜いてやりたいという気持ちはなくならなかった。


 階層的に、そろそろ何時アーティファクトが出てきてもおかしくない領域へ突入する。

 ここから先は、根気と忍耐の勝負だ。

 ひたすら敵を倒し、なんとしてでもイナリをなんとかできるアーティファクトを手に入れるのである。


 直接手に入らないなら、大金を積んで手に入れるという手段もある。

 なんにせよ、とにかく価値のあるものの出るボス部屋やモンスター部屋を、今後は攻略していかなければならない。


 いかんいかん、勘の良いイナリならわしが悩んでいるだけで、何かを見抜きかねん。

 ディルはさっと表情をいつもの柔和なものに戻して、平然を装った。


「私が皆打の名で呼ばれなくなるなんて、少し前までは考えもしませんでした」


 ウェンディはどうやら、自分が歓声を受ける立場に居ることが未だしっくりきていないようだった。

 彼女は三角帽をいつもより目深に被り、その表情を隠してしまう。

 多分、照れているのだろう。


 彼女もまた、ディル達と行動をするようになって変わった。

 今まで感じていた、どこか暗い影のようなものは最近はなりを潜めている。

 ディル達と話している時に、時折笑うようにすらなっていた。


『自分もこないだ、飲みに誘われた。行ってもいいと思うか?』

「いいんじゃない、あの鎧の直飲みさえやらなければね」

『……鎧を外すのには抵抗があるな、まだやめておこう』


 黒騎士も、以前よりずっと前向きになった。

 彼の方は、ウェンディとは異なり戦闘面でも大きな変化があった。

 呪いを克服し誰彼構わず襲わなくなった彼は、もう他の誰かとパーティーを組むことだってできるようになったのだ。


 このまま行けば、ちゃんと声を出すこともできるようになるのではないか、とディルは見ている。

 きっと黒騎士はもう、大丈夫だ。


 そういえば、黒騎士と呼ぶことに慣れていて忘れていたが、彼には未だ名前がない。

 どうやらそもそも名付けられていないらしいから、できることなら一緒に考えてやりたいところだった。


 最後にディルは自分の身体を見下ろした。

 自分では何一つ変化に気付かない。

 しかしやはり、どこかは変わっているのだろう。

 きっとそれは、一緒に居る時間が長いイナリにだって言えること。


 誰もが皆、変わっている。

 ディルは一つ頷き、後ろに居るメンバーに声をかけた。


「わしは……今後はボス部屋とモン部屋攻略に重点を当てたいと思っておる」

「問題ないだろうな。まず迷宮を踏破してから、効率の良い狩り場を探せばいい。……何、若返りのアーティファクトくらいならそう遠くないうちに見つかるだろう」

「……完全に、ディルさん達の目的を忘れていました。ですがもちろん私もそれで構いません」

『自分はディルに従う。あなたが思うように、迷宮行を続ければ良い』


 良い仲間を持った自分は幸せじゃ。

 ディルは思わずうるっときてしまい、慌てて顔を上げる。

 そしてそっと袖で涙を拭き取ってから、気持ちを切り替える。


 ここから先は、ボスや大量の魔物達との戦いが増えてくる。

 だがわし達なら、大丈夫じゃ。

 なんの根拠もなかったが、それはディルにとって、既に確信だった―――。

次回更新は1/25の予定です

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